工業用のりの原料となるべき有機リン系殺虫剤「メタミドホス」や発がん性カビ毒「アフラトキシンB1」に汚染された米が、食品に使われていた。5日発覚した三笠フーズ(大阪市北区)事故米の食用への転売。同社内部でも「九州事業部の判断」「本社の指示」と主張が食い違う。農林水産省のチェック体制に問題がなかったのか。食への不信が止まらない。
「社長の指示に基づいてやった」「大変申し訳ない。心の底から謝罪申し上げます」。福岡県筑前町にある三笠フーズの工場では、前工場所長の宮崎雄三営業課長(49)が硬い表情で説明に当たった。
事故米の転売について「本社の指示があり、指示通りのことをした。業務なので従った。あくまでトップと話し合ってやった。問題はないと思っていた」と釈明した。報道陣から認識の甘さを問われると「お答えする言葉がありません」と繰り返した。
宮崎課長が所長に就任した約2年前には、すでに不正が始まっていたといい、いつから始まったかは「明確に答えられない」とした。事故米の販売先については「調査中だが、主に九州」と説明した。
メタミドホスの残留量については「検査データを出しているが、基準値に達していなかった」と明かした。また、カビ米についても「カビは除去し、検査機関に出して最低限の安全は確認してきたつもりだ。年に3、4回は検査をしており、これまで問題になったことはない」と弁明した。
一方、大阪市北区の商業ビルにある三笠フーズ本社では、財務担当のグループ会社の男性社員が報道陣に対応した。転売は九州事業部の判断で故意に行い、農水省に指摘されるまで本社は知らなかったと説明し、謝罪した。
冬木三男社長はこの日、報道陣の前に姿を見せなかった。この社員は「社長と連絡が取れない。弁護士とは話をしているようだが……」と困惑した表情。社員によると、3日ごろ、宮崎課長から冬木社長に電話で報告があり、冬木社長は「そんなことやれと言ってないやろ」などと怒っていたという。
同社は6日午前、記者会見を開いて、事情を説明する予定。【松尾雅也、根本毅】
民間の信用調査機関によると、米穀販売店を手伝っていた冬木三男氏(73)が77年に三笠フーズを設立した。冬木氏は、これとは別に前年に米穀卸会社を友人から買い取り、グループ会社を作って、三笠フーズをその傘下に置いた。同社は、国や全農などから米粉や加工米を仕入れ、米粉販売や加工などを手がけている。
大阪・梅田に本社を置き、当初の穀類販売から事業を拡大させ、同府豊中市にライスセンター、福岡県筑前町に工場を建設。機内食や駅弁用の米を販売するほか、大阪市内に天丼チェーン店などを展開している。
近年は、米の需要が低くなったことなどから、売上高は一時期に比べ低調に推移しているという。【林哲平】
殺虫剤などに使われ、摂取すると、神経に作用し下痢や嘔吐(おうと)、寒気などを伴う急性中毒症状が出る。体重1キロ当たり約0.01ミリグラムで中毒を発症する。日本では使用が認められていない。昨年12月~今年1月にかけて、メタミドホスが混入した中国製冷凍ギョーザを食べた千葉、兵庫両県の3家族計10人が一時重体になるなどの中毒を起こした。
コウジカビから生まれるカビ毒の一種で、熱帯地域の土壌に普通に存在する。豆やトウモロコシなどの穀物に発生し、天然物として最も強力な発がん物質といわれ、長期間にわたって大量に摂取すると、肝臓がんになりやすいとされる。日本では02年にイラン産ピスタチオナッツから繰り返し検出され、厚生労働省はイラン大使に改善を要請した。
毎日新聞 2008年9月5日 22時40分(最終更新 9月6日 1時36分)