不要な身体拘束は違法だと訴えた入院患者側の主張を認めて、愛知県一宮市内の病院側に賠償を命じた5日の名古屋高裁判決の理由要旨は次の通り。
◆違法性の判断基準
身体抑制や拘束の問題を見直し、行わないようにしようという動きは主に介護保険施設や老人保健施設を中心に見られたが、高齢者医療や看護にかかわることのある医療機関などでも問題は同様で、少なくともこれら医療機関では一般に問題意識を有し、あるいは有すべきだった。
身体抑制や拘束が、厚生労働省がまとめた「身体拘束ゼロへの手引き」に示されているような身体的弊害、精神的弊害及び社会的弊害をもたらすおそれのあることは一般に認識されており、また当然に認識できる。
そもそも医療機関でも、同意を得ることなく患者を拘束して身体的自由を奪うことは原則として違法だ。患者または他の患者の生命・身体に危険が差し迫っていて、他に回避する手段がないような場合には、同意がなくても緊急避難行為として例外的に許される場合もあると解されるが、その抑制、拘束の程度、内容は必要最小限の範囲内に限って許される。右記の手引きが例外的に許される基準としている切迫性、非代替性、一時性の3要件が判断要素として参考になる。
◆本件抑制の違法性
本件抑制で、患者や家族から事前に同意を得た事実はない。抑制しなければ、転倒、転落により重大な傷害を負う危険性があったとは認められない。患者の夜間せん妄については、病院の診療、看護上の適切さを欠いた対応なども原因となっている。特に、おむつへの排泄(はいせつ)の強要や、不穏状態となった患者への看護師のつたない対応からすれば、本件抑制に、切迫性や非代替性があるとは直ちには認められない。