<前の日記(2008年08月31日) 最新 編集

高木浩光@自宅の日記

目次 はじめに 連絡先:blog@takagi-hiromitsu.jp
訪問者数 本日: 5318   昨日: 7965

2008年09月05日

「無断撮影公表に波紋」朝日新聞9月2日朝刊の記事

Googleマップの「ストリートビュー」について「無断撮影公表に波紋」と題する記事が、朝日新聞2008年9月2日朝刊社会面に掲載された。asahi.comには掲載されないようなので、朝日新聞社知的財産センターの許諾を得て*1以下に転載する。

朝日新聞2008年9月2日朝刊29面「無断撮影公表に波紋」

[社会]「ネットに写ったわが家」波紋

道路沿いの家々や通行人を撮影した画像を、インターネットで自由に見られるグーグルの新サービス。先月、国内主要都市でサービスが始まると、利便性とプライバシー保護との兼ね合いをめぐり、激しい議論がわき起こった。(1面目次欄より)

無断撮影 公表に波紋   路上から見た画像、ネット上に   ストリートビュー

道路沿いの家屋や通行人などの画像を、インターネット上で見られるグーグルの地図サービス「ストリートビュー」(SV)が国内で始まってまもなく1カ月。道案内に便利だからと不動産物件の紹介に活用する企業が登場した一方、写った人や住人のプライバシーを侵すとの批判も出ている。(小堀龍之、松村北斗)

「住宅街 画像削除を」

「気持ち悪いとしか言えません。まさか自宅の写真を世界にオープンにされるとは」

横浜市の主婦(53)はSVが始まった翌日、娘に教えられて自宅を調べると、3方向から撮影されていた。止めてある車のナンバーも読み取れた。グーグルは当初「公道から撮影した画像は公表しても問題ないと判断した」と説明していた。だが登記上、家の横は私道だ。主婦は同社の説明に疑問を抱き「近所の住宅地域全体の画像を削除して欲しい」と話す。

自宅付近の路上や公園に子どもが写っていたのを見つけた川崎市の主婦(40)はグーグルに画像削除を求めた。地域で防犯パトロールや集団下校を行っている。「通学路が特定され、犯罪に巻き込まれたら怖い」という。

問題の画像を伝えると、ほどなく削除されたが、同じ場所を違う角度から眺めると、子どもが写っていた。グーグルに、近所の通学路上の子どもの画像をすべて削除するよう求めた。

「通行禁止と掲示された場所で撮影された画像がある」。コンピューター・セキュリティー関係のブロガーとして知られる高木浩光さんは8月下旬、ブログでこう指摘した。大阪府豊能町の大阪北摂霊園内を通る道沿いに墓石が並ぶ。霊園管理室は「一般車も通る所とはいえ私有地で、事前に撮影や公表について話は一切なかった」という。

グーグル日本法人の広報担当者は「一部公道と私道の区別がつきづらいところで、誤って撮影している場所が確認されている」と認めたうえで「ユーザーからの連絡や当方の再確認によって、削除している」と説明している。

本人から寄せられた自分の顔や自宅の削除依頼は応じ、本人以外からの顔やナンバーが見えるという連絡は「意見として伺い、ぼかしや削除をしている」という。

企業活動で活用例も

SVは無料公開されている地図サービス。「グーグルマップ」で場所を選ぶと、道沿いの静止画像が見られる。画像を360度回転させたり視点を上下に動かしたりできるのが特徴で、利用者はその場にいる感覚を味わえる。

同社は屋根に柱を立て、特殊カメラを搭載した車をくまなく走らせて連続的に画像を撮影した。撮影は一都市に数カ月かかったという。日本では8月5日に東京、大阪など12都市を対象に始まった。

企業活動に使い始めたところも数社ある。ツーネクスト(東京都豊島区)は8月下旬、不動産物件データベースにSVを組み込んだ。同社が扱う約130物件について、利用者がSVを使って物件の付近の様子を見られる。駅から物件までの道のりなどのイメージがつかめ、不動産業者に好評だという。

そもそもSVはグーグル本社のある米国で昨春始まった。プライバシー侵害との批判が起き、顔のぼかし機能などが追加された。ペンシルベニア州では私道から自宅を撮影、公表されたとして、住民が損害賠償を求める訴訟を起こした。日本版は当初から通行人の顔を自動的にぼかす仕組みを導入したが、看板の顔にぼかしがかかる一方、人の顔や車のナンバーが判別できる画像もある。

情報セキュリティーに詳しい牧野二郎弁護士は「企業活動は反社会的でない限り自由が原則だが、SVは国民の平穏な生活を脅かし、プライバシー侵害の恐れがある」と指摘。「画像の利用目的を特定しないまま無断で撮影、公表している。社会的な利益にかなうとある程度認められている報道機関と違い、公道からの撮影でも侵害になりうる。自分の姿や家屋を将来にわたって撮影しないよう法的な請求も可能だろう」という。

IT産業に詳しい池田信夫・上武大教授は「グーグルと写された当事者との問題で、気味が悪い人は削除要請すればよい。表現や報道の自由にかかわる問題で、グーグル批判を撮影や公表の規制につなげてはならない」と話す。

他社は目線から撮影

画像と地図を組み合わせたネット上のサービスは、各社が最近始めている。

ヤフー(東京都港区)は6月、東京23区内の駅の出入り口約2600の画像を見られる機能を「ヤフー!地図」に追加した。NTTレゾナント(同千代田区)も「グー地図」で06年4月から約2千カ所の駅周辺の画像を提供する。

「ロケーションビュー」(同)のサイトでは、道路沿いを画像だけでなく動画でも見られる。25地域が対象で、東京23区内は道路の約8割に対応。昨年10月に公開した。もとは公的機関向けに設計され、一般向けは、画質を落とし無料で提供している。

3社とも現時点では目立った苦情はない、という。

グーグルとは画像の量や知名度が違い、一概には比べられないものの、違いの一つは撮影位置だ。「人の目線にあう高さ」(NTTレゾナント)など、3社のカメラの高さは地上から約1.6〜1.8メートル。一方、グーグルのSVはカメラの高さは2.5メートル近くあり、塀の上から住宅の敷地内をのぞきこむような画像もある。

ロケーション社の中山聡・運営企画部長は「カメラが高い方がよく見えるが、議論の結果やめた。プライバシー侵害に当たらないかなど、事前に検討した」と説明する。

また、各社は画像を社員らが目視で確認、顔や車のナンバーを隠す処理をしたとし、グーグルの自動によるぼかし機能との違いを強調する。

(写真)グーグルの撮影車両とみられる車=読者提供

朝日新聞2008年9月2日朝刊29面より
朝日新聞社知的財産センターの許諾のもと転載(許諾番号: 2-1257)

*1 有償での許諾。「読者提供」写真の転載は朝日新聞社からは許諾されないが、写真提供者に別途連絡して転載の許諾を得た。また提供者の許諾があればこの形で転載してよい旨、朝日新聞社知的財産センターの承諾を得た。

本日のリンク元

2000|01|
2003|05|
2004|07|08|09|10|11|12|
2005|01|02|03|04|05|06|07|08|09|10|11|12|
2006|01|02|03|04|05|06|07|08|09|10|11|12|
2007|01|02|03|04|05|06|07|08|09|10|11|12|
2008|01|02|03|04|05|06|07|08|09|
<前の日記(2008年08月31日) 最新 編集

最近のタイトル

2008年09月05日

2008年08月31日

2008年08月30日

2008年08月29日

2008年08月24日

2008年08月22日

2008年08月15日

2008年08月12日

2000|01|
2003|05|
2004|07|08|09|10|11|12|
2005|01|02|03|04|05|06|07|08|09|10|11|12|
2006|01|02|03|04|05|06|07|08|09|10|11|12|
2007|01|02|03|04|05|06|07|08|09|10|11|12|
2008|01|02|03|04|05|06|07|08|09|
<前の日記(2008年08月31日) 最新 編集