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当直士官ら謝罪、事実は争う姿勢 あたご事故海難審判

2008年9月4日15時0分

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写真第1回海難審判に臨むイージス艦あたごの舩渡前艦長(右端)ら=4日午前、横浜市中区の横浜地方海難審判庁、代表撮影

写真海難審が行われる廷内に入るあたご元艦長の舩渡1佐=4日午前9時16分、横浜市中区、越田省吾撮影

 海上自衛隊のイージス艦「あたご」と漁船清徳丸が2月、千葉県房総半島沖で衝突し、漁船の親子2人が犠牲になった事故の第1回海難審判が4日、横浜地方海難審判庁(織戸孝治審判長)で始まった。刑事裁判の被告にあたる「指定海難関係人」として過失責任を問われた衝突前と衝突時の当直責任者だった士官らは謝罪したが、「清徳丸の右転で危険が生じた」などと述べ、清徳丸の航路や操船について、起訴状にあたる申立書の事実を争う姿勢を示した。

 海自の組織が審判対象となるのは、30人が犠牲になった88年の潜水艦「なだしお」と釣り船第1富士丸の衝突事故以来2例目。海自の組織的な責任がどう判断されるかも焦点となりそうだ。

 関係人とされているのは、衝突前の当直士官で航海長だった後瀉(うしろがた)桂太郎3等海佐(36)▽衝突時の当直士官で水雷長だった長岩友久3佐(35)▽艦長だった舩渡(ふなと)健1佐(53)▽当直士官を補佐する戦闘指揮所(CIC)の責任者で船務長だった安宅(あたか)辰人3佐(43)のほか、あたごが所属した旧第63護衛隊(組織改編)の5者。

 後瀉、長岩の両3佐は「申し訳ない」と述べる一方で、「清徳丸の動静監視はしていた」と主張。さらに長岩3佐は「衝突の危険性はないと判断した。その後の清徳丸の右転により新たな危険が生じたと考える」と訴えた。

 舩渡1佐も「艦長としての責任を感じている」と陳謝。尋問では「(見張りの)訓練不足ではない」としたが、「危険がなくなるまで監視する必要があるのに、一部が欠けていた」と答えた。旧護衛隊を代表して出廷した末次富美雄・前隊司令(52)は「誠に申し訳ない」とし、事実関係については言及しなかった。

 横浜地方海難審判理事所の陳述によると、後瀉3佐は2月19日午前3時40分、前方に漁船群を確認したが、接近しないと判断して監視を指示せず、誤った引き継ぎをした。引き継いだ長岩3佐は同57〜58分ごろ、右前方3カイリに漁船を確認。相手を右に見るあたご側に回避義務があったが、衝突の恐れに気付かず、あたごと清徳丸は4時6分に衝突した。

 安宅3佐はCICへの指示、自室にいた舩渡1佐は当直全体への指示、旧護衛隊は教育や訓練がそれぞれ不徹底だったとされた。

 理事所は、清徳丸側も衝突を避ける「最善の協力義務」をとらなかったと認定したが、死亡により審判の対象から外した。

 事故では、第3管区海上保安本部(横浜市)が6月24日、後瀉、長岩の両当直士官を業務上過失致死と業務上過失往来危険の疑いで横浜地検に書類送検している。(長野佑介、杉村健)

     ◇

 横浜市中区の合同庁舎内にある横浜地方海難審判庁。午前9時40分、あたごの当時の艦長だった舩渡健1佐を先頭に、指定海難関係人に指定された5人が黒や紺の背広姿で審判廷に姿を現した。

 認否の場面ではそれぞれが起立し、「亡くなった2人に申し訳ない」などと冥福を祈る言葉を口にした。その後、あたごに乗艦していた4人が申立書に反論。衝突時の当直士官だった長岩友久3佐は立ち上がり、「清徳丸の右転により新たな危険が生じた」とはっきりした口調で述べた。旧護衛隊を代表して出廷した末次富美雄・前隊司令(52)は「亡くなった2人に対して誠に申し訳ない」として事実関係には言及しなかった。

     ◇

 清徳丸が所属していた新勝浦市漁協の外記栄太郎組合長(80)は「事故の真実が知りたい」という一心で、傍聴のために横浜に来た。「今までは事故の状況が二転三転したこともあり、納得がいかないこともあった。審判は時間がかかってもいいので、原因を明らかにしてほしい」

 事故当時、一緒に現場で航行していた僚船・金平丸船長の市原義次さん(55)は、組合長と一緒に海難審判所に向かう途中「この半年は長かった」と振り返った。「内容をしっかり把握したい。この審判が清徳丸のためであってほしい」と思いを語った。

     ◇

〈「あたご」衝突事故〉 2月19日午前4時6分、千葉県野島崎沖約40キロの海域で起きた。「あたご」(基準排水量7750トン)と同県勝浦市の新勝浦市漁協所属のマグロはえ縄漁船・清徳丸(7.3トン)が衝突。清徳丸は真っ二つに割れて沈没、吉清治夫さん(当時58)と長男哲大さん(当時23)が行方不明となり、事故から3カ月たった5月20日に死亡認定された。

 〈海難審判〉 海難事故について、行政の立場で原因究明や関係者の処分を決める「海の法廷」。刑事裁判の検察官にあたる理事官の申し立てで開かれる。被告にあたるのは、一般的な操船・操縦の免許を持つ「受審人」と、それ以外の「指定海難関係人」。海自隊員らは後者で、免許取り消しなどの「懲戒」の対象にならないが、判決にあたる裁決で、実質的に過失や責任を認定され「勧告」を受ける可能性がある。

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