更新:9月5日 12:50インターネット:最新ニュース
技術は世界レベル、目標はグーグル・PFI西川社長――推奨エンジンに挑む人々(4)
情報処理推進機構(IPA)のスーパークリエーターや国際的なプログラミングコンテストの上位入賞経験者が集まって立ち上げた検索エンジン開発のプリファード・インフラストラクチャー(PFI、東京・文京)。「推奨エンジンの進化はこれからが本番」と熱く語る西川潔社長に、推奨エンジンの可能性を聞いた。 ■ハイレベルなプログラマーが集う PFIは「小学生のころから授業中に机の下でプログラミングしていた」という西川氏が「普通」に見えるほど、ハイレベルなプログラマーぞろいのベンチャーだ。11人の社員のうち西川氏など6人が、米計算機学会の主催で毎年世界から数千チームが参加する国際大学対抗プログラミングコンテスト(ICPC)の世界大会上位入賞者。独自に開発した検索エンジンが高い評価を得て「スーパークリエーター」に選ばれた岡野原大輔氏など、IPAの未踏ソフトウェア創造事業出身者も6人いる。 「プログラミングコンテストなどで知り合った6人で会社を始めました。そのときの経験から、技術力は海外にも通用するという自信をみんな持っています。目指すはグーグル。規模は全く違いますが、彼らも基盤となる技術は少数の優秀なメンバーが作ったわけですから」 岡野原氏が開発した独自技術をもとにした大規模全文検索サービス「Sedue」を核に、キーワードと関連の深い単語を判別して提示する連想検索の「Reflexa」、文章の内容を比較して関連性の高い記事を推奨する関連記事推薦エンジン「Hotate」など様々なタイプのエンジンを用意する。これをサイトの目的に応じて部品を組み合わせるようにカスタマイズして提供している。
7月にははてなと提携し、はてなブックマーク向けに記事の推奨機能を共同開発した。開発力を売りにするはてなが自主路線を捨てて初めて他社と提携したのは、はてなの近藤淳也社長も絶賛する技術力の高さゆえ。推奨エンジンは朝日新聞社のasahi.comや携帯検索のエフルート(東京・千代田)の検索サービスなどでも採用されている。 PFIの推奨エンジンの特徴は、西川氏が得意とする大規模データベースの分散処理技術により、マシンの規模やスペックに頼らず、大容量のデータを高速解析できる点だ。ユーザーはサーバーなどのコストを最小限に抑えることができる。自然言語処理などのソフト面と分散処理などのハード面の双方の技術力を持つ点は、確かに規模は違うがグーグルに通じるところがあるかもしれない。
■携帯で「空気を読む広告」配信サービス PFIが現在準備しているのが、10月に始める予定の携帯サイト向けアドネットワーク「ユビマッチ」だ。学習技術や推奨エンジンによって、携帯サイト上でのユーザーの行動パターンを分析して、ユーザーにマッチした最適な広告を自動的に選んでサイトに配信するという。 「携帯広告はこれまで、勝手サイトではユーザーの端末を個別に認識することができず、パソコンで導入が進む行動ターゲティング広告のような高度なマッチングができませんでした。でも、NTTドコモが4月から携帯IDを開放して、勝手サイトの行動履歴も取れるようになった。ユビマッチは、この携帯IDを個人識別の鍵として利用することで、ユーザーごとに適した広告を配信することができます。つまり『空気を読む』広告の配信です」
携帯のユーザーIDはパソコンでネットを使う際にサイト側が個別のパソコンを識別するのに使うクッキーの携帯。アドネットワークに加入したサイトであれば、サイト横断的に全ユーザーの行動履歴を追跡することができるようになる。 例えばグルメ関連のサイトを頻繁に見ている人には、グルメ関連の広告を配信する、といった使い方を幅広く展開できる。推奨エンジンで培った技術を広告配信に生かすことで新たな収益を見込む。マッチング精度の高さを武器に、広告単価の引き上げも狙うという。さらに今後は「あなたに必要なニュースはこれとこれ」といった形で、カスタマイズしたニュースポータルサイトを提供することも検討している。 ただ、携帯のユーザーIDは効率よくユーザーの履歴を収集できる半面、ユーザーが設定を変更しない限り自動的にサイト運営者にIDが公開されることから、プライバシー問題を指摘する声もある。PFIでは、個人の閲覧履歴などのログが万一流出したとしても個人を特定できなくするように、情報を暗号化するなど配慮している。 ■推奨エンジンの進化これから
西川氏は推奨エンジンが本領を発揮するのはこれからだと考えている。 「アマゾンが推奨エンジンを実用化してビジネス的に成功して10年ぐらいです。その間、ブロードバンドインフラやメモリーが格段に進化して、実用化が難しいといわれてきた人工知能をビジネスに応用することも検討できる段階に来たのではないでしょうか。一時期見かけなくなった『パーセプトロン』とか『ニューラルネットワーク』といった未来志向の技術も、最近また論文で目にする機会が増えています。ユーザーが必要とする情報にたどりつくためのスピードをもっともっと速くできるようになるはずです」 具体的には、従来の推奨エンジンの概念を変えるような機能を追究していきたいという。たとえば、欲しい情報を探すためのプロセスそのものを推薦してくれるようなサービスや、エージェントと対話しながら欲しい情報を見つけるといったサービスを想定しているようだ。 技術者集団のPFIは「新しい技術・面白い技術をいち早く世の中に届ける」という理念を掲げる。社員のモチベーションは新しい技術を開発して広めることにあるため、受託開発はしないと決めているという。経費はいまのところ、共同開発や技術のライセンス販売による収入でまかなえている。
正確なプログラムを素早く完成させることが求められるプログラミング大会を勝ち抜いたメンバーだけに、集中すれば完成度の高い製品を3日で仕上げるということもあるという。1つのプログラムをチームで組むペアプログラミングという開発手法も、学生時代に培ったノウハウが生きている。個々の技術が高いだけでなく、チームの力で開発の生産性を高めている。 アドネットワークへの参入を機に、初めてデータセンターを借り、営業担当者も採用する。日本に少ない技術ベンチャーとして頭角を現すか、25歳の経営者の腕試しはこれからが本番だろう。 [2008年9月5日/IT PLUS] ● 関連記事● 記事一覧
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