青年はなぜ霊峰を目指す
《空前の20代富士登山ブーム》
今夏、名古屋市内で大きな荷物と木の棒を抱えた若者をよく見掛けた。聞くと富士山で利用される「金剛杖(こんごうづえ)」という。過去最高の登山者を記録した富士山、意外にも登山ブームに沸いた団塊世代ではなく20代の若い人たちが中心だった背景がある。「なぜ今、若者が富士山なのか?」。行楽シーズンを前にブームを追跡してみた―。(広)
■達成感求めて険しい道を 山梨県富士吉田市役所富士山課によると、今年の富士登山者数は24万人を超えて過去最高。同課は昨年6月のユネスコ世界遺産暫定リストへの登載や環境問題、天候に恵まれたことがこの「富士登山ブーム」に影響していると分析している。
もともと戦後の登山ブームに沸いた団塊世代や外国人らに人気の富士山。しかし各所に問い合わせると、いずれも「このブームを支えているのは若年層」と口をそろえる。
名古屋から富士登山のツアーを行っているサンシャインツアー(本社・大阪)の広報は「富士登山希望者は前年より3割ほど増えた。とりわけ20代の若い女性が目立つ。添乗員やガイドを頼まずに自身で登るツアーが人気ですね」と話す。
名古屋市中村区の登山用品専門店「駅前アルプス」でもここ数年、富士登山への問い合わせが急増。「若い人が尋ねてくるケースが本当に多い。登山ブームのころとは違い、いくらでも遊びがある中でなぜ富士登山なのか」と従業員らは首をかしげる。
市内に住む梅本和希さん(30)はここ5年間、毎年富士山に登頂している大の富士登山ファン。最近ではインターネットなどで登山希望者を募り、一緒に登るなどして交流を広げている。ブームについて聞くと「達成感に飢えた若い人が挑戦する対象として分かりやすいのでは」と梅本さんは傾向を指摘する。環境問題や原油高の影響ではないと語る。
富士登山ではそろいのユニホームで登ったり声を掛け合いながら登るグループが目に留まる。「結束を強めて厳しい道をストイックに達成するのが今の若者の支持につながっていると思う。『日本人に生まれたからには富士登山』という意識が強く、登頂後は『日本一の山に登った』という自信にもなる」と梅本さん。
一方で「ほとんどが山ではなく、富士山が好きで登る人たち。山小屋で騒いだり、登山道をショートカットして落石を起こすような山のマナーを知らない人が多い。下準備と知識はしっかり必要」と呼び掛ける一面も。
こうした状況の中、アウトドア業界ではブームを喜びながら「富士山の次に挑戦するなら北アルプスの涸沢(長野県)の紅葉がきれいでいい。歩く距離を考えれば世界自然遺産の屋久島(鹿児島)もお薦めです」(駅前アルプス)と積極的にアドバイス。パンフレットの配布なども展開し「入り口は観光気分でもいい。山の魅力に気付いてもらえれば」と語気を強める。
若者たちが自信や協調を求めて行う富士登山。行楽シーズンを前に富士登山者から新しい登山ファンが出てくるよう、若者の「アウトドア回帰の兆し」へ期待を寄せている。
【写真説明】金剛杖を持って富士山を登る若者ら(富士吉田市役所提供)
(2008年9月4日更新)
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