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社説:雇用開発機構 「解体」論は乱暴過ぎないか

 独立行政法人改革の焦点の一つになっている厚生労働省所管の「雇用・能力開発機構」の見直しを検討してきた政府の行政減量・効率化有識者会議が、同機構の組織を解体する方針を固めた。主要業務である職業訓練事業を都道府県か民間に移管し、入場者が少なく10億円を超す赤字を毎年出してきた職業体験施設「私のしごと館」(京都府)を廃止する方針で、有識者会議が合意した。

 同機構のあり方については厚生労働省の有識者検討会で存続の方向で議論が進んでいる。早急に結論を出すよう指示した福田康夫首相が辞任を表明したため、廃止か存続かの結論は新首相の決断にかかってくる。

 同機構の主要業務である職業訓練には失業者、在職者、学卒者訓練がある。一連の独法改革で、ものづくりに特化した訓練に絞っており、情報処理などの訓練は民間に委託されている。

 解体の方針によれば、全国61カ所にある「職業能力開発促進センター(ポリテクセンター)」は都道府県に移管を検討する。地方自治体でも独自に訓練が行われているが、自治体の訓練は地場産業の人材育成が中心だ。ものづくりに特化した同機構の訓練とは違う。フライス盤や溶接などの訓練には多額の設備投資と実績のある指導員が必要で、財政力の弱い自治体や民間に引き継ぐのは難しい。

 雇用が流動化するなか、失業や転職者のためのセーフティーネットとして職業訓練が必要だ。民間や自治体がやらない、やれない分野で、必要な訓練は国が行う必要がある。全国一律の職業訓練の水準を保ちながら、着実に人材育成を図っていくのは国の役割というのが、これまでの整理だった。財政難などを理由に方針転換を図ることの功罪を判断すべきだ。

 同機構の運営は雇用保険料でまかなわれている。ムダを徹底的に排除し、訓練業務の大幅な見直しを行うのは大前提だが、自治体などに移管して同機構を解体すれば問題が解決するというのは乱暴な議論だ。

 失業者の訓練後(年間11万人が受講)の就職率は約8割に達している。学科と企業実習を組み合わせた「日本版デュアルシステム」を受講したフリーター(年間3万人が受講)の就職率も8割弱だ。同機構の業務について冷静に評価を行ったうえで結論を出すべきで、国民受けを狙った解体論では支持は得られない。

 全国に10ある職業能力開発大学校と訓練指導者を養成する職業能力開発総合大学校の統廃合や定員削減などの見直しも行うべきだ。

 焦点の「私のしごと館」は今月から民間委託が始まった。契約期間は2年間、職業体験事業の実費として毎年約6億円を同機構が負担する。まず民間委託の実績をみることだ。それでも収支改善ができなければ、廃止を検討すべきだ。

毎日新聞 2008年9月5日 東京朝刊

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