米共和党大会はジョン・マケイン上院議員を大統領候補に正式指名した。一匹オオカミと呼ばれ、保守本流とはいえない政治家だ。不人気のブッシュ大統領の後継者にそんなマケイン氏を選ぶほど、共和党も変化を必要とした。
マケイン陣営の選挙運動の分かれ目となりそうな要素を三つ指摘したい。
第一に「ペイリン効果」が有利に出るか、不利となるかだ。アラスカ州の女性知事、サラ・ペイリン氏を副大統領候補に抜てきしたマケイン氏の選択は米国と世界を驚かせた。民主党のバラク・オバマ氏とベテラン上院議員ジョゼフ・バイデン氏の組み合わせは、清新さに欠けるが無難で大きな話題にはならない。
しかし、ペイリン氏は共和党初の女性副大統領候補であり、しかも小さな町の市議、市長と2年間の知事しか公職の経験がない。予想外の指名を党の有力者らはマケイン氏の「大胆な決断」として称賛した。
だが、米メディアは新人に対しそれほど温かくない。過去の言動や公職の業績、家族関係を一斉に調べ、副大統領の適格性があるか連日、報道している。ペイリン氏は指名受諾演説で「ワシントンのエリートでないというだけの理由で、メディアは候補の資格がないと扱うことがわかった」と反撃したほどだ。
ペイリン氏が問題発言したり、メディアの疑問に対し説明できなければ、マケイン氏の判断力そのものが問われる事態となる。
第二は、マケイン氏の72歳という年齢だ。レーガン大統領を上回り、1期目として史上最高齢となる。高齢だからふさわしくないという年齢差別は、米国では決して口にできない。本人も健康に問題がないと強調する。
だが、28歳年下のペイリン氏指名で、マケイン氏の高齢が逆に際だってしまった。当選すれば、万一の場合、後継大統領はペイリン氏だ。これらの要素は有権者の投票心理に無関係ではないだろう。
第三は、ブッシュ大統領との距離だ。オバマ氏はマケイン氏を3期目のブッシュ政権と呼び、2人を同一視する戦略をとる。経済悪化や長引くイラク戦争など8年間のブッシュ政権が未解決のまま残す課題は多い。共和党候補としてマケイン氏は現政権を全面的に否定も肯定もできないジレンマがある。ブッシュ氏からどの程度離れると有利か、政治的計算が難しい。
「新冷戦」とまで表現されるロシアとの関係悪化など国際情勢が急変する中、選挙戦は本格化する。マケイン氏は昨年、外交政策論文で「アメリカは特別な国であり、『丘の上の輝く町』にもっとも近い存在だ」と述べ、米国の指導力と信頼の復活を主張した。2人の候補が米国と世界をどう動かしたいのか論戦を聞きたい。
毎日新聞 2008年9月5日 東京朝刊