今回の首相辞任は、官僚支配政治の行き詰まりを示した。海外の報道には景気対策への失望も一因との評価も見られた。実際、今回の総合経済対策案を見ると、景気不振の原因を十分に検証した跡が見られず、目先の選挙対策や、政府与党に都合の良い方策を並べた官僚の作文との印象がある。
昨今の景気悪化は、過剰在庫や過剰設備によるものでなく、また金融引き締めのせいでもない。むしろ、資源や輸入食糧などのコスト上昇に対し、賃金や預金金利でカバーできず、家計所得が大幅に目減りして、消費を圧迫したためだ。また低金利でも、当局の検査や諸規制の強化で建設、不動産、消費者金融などを中心にお金が流れなくなり、株価や不動産価格が下落している。かつての病状とは異なる形で知らぬうちに経済がむしばまれている。
例えば、7月の勤労者世帯の名目可処分所得は、賃金が伸びないところに税や社会負担の高まりで1.2%も下落した。消費者物価について政府は、石油や生鮮品を除けば0.2%しか上がっていないと言うが、月に1度は購入する現実的な費目で見れば6%も上がっている。現実の実質所得は7%以上も目減りしていることになる。
その中で出てきた対策は、太陽光発電はよいとしても、自民党支持団体を確保するための漁協を介した補助金支出や低所得者向けの減税、特別給付金はいかにも選挙対策の感がある。また金融庁検査の厳格化と矛盾する中小企業の資金繰り支援や、住宅ローン減税は単に事業規模を大きくみせるもの。かつて子育て減税や中小企業向け信用保証拡大で失敗した経験が生かされていない。今こそ経済戦略の提示が必要だ。(千)