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2008年9月5日

◎加賀友禅研究所 衣のブランドに磨きかけたい

 金沢市が来年四月に設立する「加賀友禅技術振興研究所」(仮称)は、城下町がはぐく んだ着物ブランドと、それをシンボルとして定着してきたこの地域の和装文化を盛り立てる重要な役割を担うことになる。有識者による設立準備委員会が研究所の機能や活動内容について議論を始めたが、金沢の「衣のブランド」に磨きをかける戦略拠点を目指してほしい。

 生活様式の変化で着物離れが進む中、金沢では結婚式や成人式だけでなく、華道、茶道 、邦楽など習い事の厚い土壌の上に和装文化が成り立っている。着物を着る機会は他の都市より多い。金沢に着物のイメージが強いのは、そうした土壌に加え、加賀友禅という生え抜きの着物ブランドが存在するからである。

 「ファッション産業都市」宣言をしている金沢市にとって、加賀友禅をはじめとする和 装文化に元気があってこそ宣言の重みが増す。研究所には一伝統産業の活性策というより、金沢という都市の魅力を高める大きな視点をもって活動を展開してほしい。

 加賀友禅の年間生産額は一九九一年度の約二百億円をピークに減少し、昨年は四十五億 円に落ち込んだ。着物の高級ブランドだけに景気の影響は避けられないだろう。その一方で、若い女性の間で着物が再認識され、静かなブームが続いているとの指摘もある。決して逆風ばかりではない。

 研究所は技術支援、販路拡大、後継者育成などに取り組む方向だが、中でも大事なのは 綿密な市場調査に裏付けされた需要開拓とブランド価値の効果的な発信である。気鋭のデザイナーの知恵を借りるなど若い女性の感性に訴えかける情報発信が求められよう。

 加賀友禅を育ててきた現場の一つは三茶屋街であり、友禅業界を活性化させることは茶 屋街の文化を継承していく大きな力にもなる。浅野川の友禅流しが象徴するように、城下町の情緒をはぐくみ、小説の題材を提供してきたのも加賀友禅である。金沢の「衣のブランド」に磨きをかけることはこのように金沢の魅力を引き出す大きな意義を持つことを認識したい。

◎接戦の米大統領選 世界に向けた政策論争を

 ジョン・マケイン上院議員が共和党の大統領候補に正式に指名された。これにより十一 月に行われる米大統領選挙では、マケイン氏と、先に民主党の大統領候補に決まったバラク・オバマ上院議員がしのぎを削ることになった。マケイン氏が当選すれば七十二歳という米国初の高齢大統領の登場になるし、オバマ氏が当選すれば米国初の黒人大統領の誕生になる。世論調査では「大接戦」の見通しだ。

 景気の悪化を反映して、有権者の最大の関心は「経済」だそうだ。が、米国はかつて世 界のGDPの七割近くを占めていた。その比率が現在、約三分の一に下がったとはいえ、一国のGDPでは抜きん出たパワーであり、世界の政治や経済の動向に大きな影響を及ぼす存在であり続けている。両候補とその陣営は世界における米国の役割の大きさを自覚し、内向きではなく、世界に向けた政策をもっと打ち出してもらいたい。

 影響力の大きさから、スキャンダルの応酬や、人気取り的な国内向け政策にとどまって もらいたくないのだ。

 今、世界は大きく揺れ動いている。グルジア紛争を火種に、かつての米ソ対立が再現し かねない雲行きであり、アフガニスタンでは武装勢力のタリバンが勢いを盛り返し、これと関連してイラクの安定への道もまだ危うい。経済では中国、ロシア、インド、ブラジルなどの新興国の台頭は歓迎すべき一面を有しているが、半面では資源争奪や資源ナショナリズムにつながり、高騰した資源によって世界経済にひずみが生じてきた。進行すれば、世界経済に深刻な打撃を与えるといわれる地球温暖化防止についても各国の足並みはそろわない。

 世界のリーダーとしてこれらのグローバルな問題にどう取り組むのか。世界の注目はそ こにあることを知ってほしい。マケイン氏は民主主義や資本主義の擁護と拡大に積極姿勢を取り、オバマ氏は多様性を肯定する対話路線を示しているが、より具体的な政策を競い合ってほしいのだ。米国の二人にはその責任がある。


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