福田康夫首相(自民党総裁)の突然の退陣表明を受け、自民党の後継総裁選びが慌ただしく動き始めた。
国民不在の政権投げ出しで招いた政治不信を取り戻し、党内の求心力を高められるのかどうか。早期解散・総選挙を迫る民主党の圧力に苦しめられていた自民党にとっては、有権者に政策をアピールし、反転攻勢に出るチャンスともいえよう。
総裁選は十日告示、二十二日投開票の日程が決まった。複数の候補者が届け出た場合、十一日に所見発表演説会を行う。緊急事態を受けて、投開票は党大会に代わる両院議員総会で行い、党所属国会議員が一人一票、各都道府県連が三票ずつの計五百二十八票で争われる。
いち早く出馬の意向を表明したのは、後継に本命視される麻生太郎幹事長だ。「(総裁を)受ける資格はあると思う」と明言した。八日に正式な出馬表明会見を開き、公約を発表する段取りだ。衆院選を控え「選挙の顔」としての期待が高い麻生氏は、財政再建よりも景気対策優先の姿勢を見せる積極財政論者として知られる。
これに対し、麻生氏の対抗馬擁立の動きも本格化した。小泉内閣以来の構造改革路線堅持を掲げ、麻生氏に距離を置く中川秀直元幹事長らは小池百合子元防衛相の擁立を模索している。小池氏は「いろいろ皆さんと連絡を取り合っている。野球は一人ではできない」と述べ、出馬検討をにおわせた。
このほか、石原伸晃元政調会長の立候補を望む声もある。党内には「少なくとも三人の候補者が出ないと論戦が深まらない」と“三つどもえ”の戦いを期待する声も漏れる。
今回の総裁選では、何としても複数候補による開かれた政策論争を期待したい。小沢一郎代表の無投票三選となる見通しが強い民主党が、活発な政策論争を通じて政権構想を訴える機会を封印しただけに、余計にその感を深くする。
麻生氏とその対抗馬が出馬することになれば、当然、経済・財政運営を争点に論戦が繰り広げられることになろう。それは、そのまま自民党の総選挙に向けた政権公約にも結びつくはずだ。堂々と政策で競い合い、深化させるべきではないか。それでなければ、政権担当能力は十分には保証されまい。
自民党の新総裁は次期首相となり、早晩、衆院解散に踏み切らざるを得ないだろう。国家の危機というべき政治の閉塞(へいそく)状況を打開できる指導者が今こそ求められる。問われるのはリーダーとしての資質である。
日本相撲協会が、東京・両国国技館で十両以上の力士を対象に抜き打ちで尿検査を実施したところ、ロシア出身の幕内露鵬と十両白露山の兄弟から大麻の陽性反応が出た。現在精密検査の結果を待っているところだ。
警視庁は二人から任意で事情を聴くとともに所属する部屋や自宅を家宅捜索した。八月には同国籍の元幕内若ノ鵬が大麻所持容疑で逮捕されたばかりで、事実とすれば、角界にとっては深刻な打撃となろう。
抜き打ち検査は、相撲協会の再発防止検討委員会が元若ノ鵬の逮捕を受けて行った。二人が幼少時から若ノ鵬と親しかったことから、角界内部で懸念の声が挙がっていたからだ。相撲協会幹部は逮捕直後に二人に事情聴取を行い、関与はないと判断していた。
ところが今回の検査で、二人は複数回調べてもすべて陽性になった。他人の煙を吸う副流煙や疑陽性の可能性は残るとして検討委は専門の検査機関へ回した。露鵬は腰痛治療薬の可能性を指摘し、白露山も使用を強く否定した。
相撲協会とすれば、全員がクリーンであることを抜き打ち検査で宣言するつもりだったのにかえって疑惑を深める結果となってしまった。いっそ汚染の芽を摘むために、力士全員を検査しておくべきだ。
露鵬の入門時の師匠は元横綱大鵬の納谷幸喜氏で、白露山の現在の師匠は北の湖理事長である。大相撲の伝統や力士としての品格を若い力士に伝えていくことは、かつての名横綱が実地に指導しても難しい時代となったのだろうか。
大相撲の人気を支える外国人力士は増える一方だ。力士教育をないがしろにしてきた北の湖理事長のトップとしての責任が問われよう。
(2008年9月4日掲載)