社説ウオッチング

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社説ウオッチング:終戦記念日 対米関係で主張二分

 ◇「独自の国際協力目指せ」--毎日

 ◇「同盟強化を」--産経

 「過去から得る教訓は貴い。われわれは過去を忘れずその教訓を骨身に徹せしめねばならぬ」

 ポツダム宣言の受諾と戦争の終結を報じた1945年8月15日付の毎日新聞朝刊1面に掲載された社説の一節である。社説の見出しは「過去を肝に銘し 前途を見よ」だった。

 毎日新聞をはじめ戦前の新聞は軍部の暴走を食い止めるどころか、それをあおってきた。戦後、新聞は、その痛切な反省の中で再出発した。この日の社説も相当な混乱の中で書かれたものだろう。だが、過去から学び、未来にどう生かすかという視点は現在に至るまで貫かれてきたといっていい。

 新聞・テレビとも北京五輪一色の感があった2週間だが、やはり今回は、63回目を迎えた終戦記念日(15日)の各社社説を取り上げたい。元旦社説と同様、各紙の立場が色濃く反映されるからだ。

 ◇世界の新たな現実

 日経を除く各紙は今年も、この日はテーマを一つにしぼる「1本社説」を掲載した。

 毎日は「大事なのは、平和を日々確かなものにしていく努力」とまず記し、日本の国際協力のあり方を中心に論じた。

 前提となっているのは、(1)世界は石油と食料の高騰におびえ、国際協力を忘れて国内保護に走っている(2)米国の軍事力で解決できる問題が少なくなっているのが、新しい現実だ--という2点の現状認識である。

 そのうえで、米国との同盟関係は日本外交の基軸だとしながらも、「それは何もかも米国に追随することを意味しない」と指摘。カナダの上院議員が、カナダ、ドイツ、日本など政治的野心のないミドル・パワーが結束し、国連安全保障理事会を動かしていこうという「ミドル・パワー(中級国家)の連携」を提唱していることを一例にあげて、日本独自の国際協力を構想する時期だと提唱した。

 対照的だったのが産経だ。

 1921年、日英同盟が廃棄され、新たに日米英仏4カ国条約が結ばれた。これについて同紙は「同盟とは異なり、何ら日本の安全を保障するものではなかった」「日本は国際的孤立を深め、先の大戦での破滅の道をたどることになる」とする。だから、日米同盟の強化が必要であり、中国や韓国などとの「多国間の枠組み」を日本が選べば、「また、孤立の道を歩むことになる」と書いている。

 中国には嫌日感情が、日本には嫌中感情があるという朝日は「五輪が象徴する中国の台頭は、日中関係にも新たな発想を迫っている」と書く。「認識がどこでずれていくのかを探り、柔軟な心で双方の『違い』に向き合っていく」というのは、とりわけ若い世代へのメッセージのようだ。

 ◇グローバル化の懸念

 1929年、ウォール街の大暴落をきっかけとする世界恐慌と比較をして、今のグローバル経済の行方に懸念を示したのが東京だ。

 「石油などの資源争奪と食料まで投機対象とする貪欲(どんよく)と無節操は帝国主義時代さながら」とする同紙は、「人間のための社会経済システムや社会保障体制」を早く再構築するよう求めている。

 日経は戦後、57万人の人々が旧ソ連やモンゴルに強制抑留された点にも言及した。ロシア政府との間で今も確認作業が続いており、「戦後処理はまだ終わっていない」と結んだ。

 今年は福田康夫首相が早々に靖国神社を参拝しない意向を表明し、小泉、安倍両政権で絶えずクローズアップされてきた「靖国問題」が政治の表舞台から消える中での終戦記念日でもあった。

 追悼のあり方という問題にしぼったのが読売だ。中国人監督によるドキュメンタリー映画「靖国」や、極東国際軍事裁判(東京裁判)、A級戦犯の靖国合祀(ごうし)問題と新たな追悼施設建設などについて言及している。

 しかし、福田首相の今回の対応に賛成なのかどうか、特段の評価をしていない点など、読売としての主張や明確なメッセージは、やや乏しいように感じるがどうか。

 ◇対照的だった靖国問題

 追悼のあり方に関しては、毎日も翌16日付の社説で取り上げた。

 毎日は、かねて首相の靖国参拝には反対しており、今回の福田首相が参拝しなかったことについて「当然の対応であると評価したい」とした。加えて、「小泉時代の喧騒(けんそう)は終わった。むしろ、静かに追悼のあり方を議論する好機だと考えたい」と記した。

 産経も16日付で、この問題を取り上げたが、見出しは「福田首相はなぜ参拝せぬ」だった。ここでも毎日とは対照的だった。

 さて冒頭紹介した63年前の新聞は、朝刊とはいえ、当局の指示によって、8月15日正午、昭和天皇による玉音放送がラジオで流された後、配達された。すでに御前会議でポツダム宣言受諾が決断されたことを毎日新聞は直後につかんでいたが、社内でも一部を除いて極秘にされたという。

 平和、そして言論の自由を守り続けなくてはいけない。改めて、その思いを強くする。【論説委員・与良正男】

毎日新聞 2008年8月24日 東京朝刊

社説ウオッチング アーカイブ

8月24日終戦記念日 対米関係で主張二分
8月10日北京五輪開幕 各紙「中国論」に傾斜
 

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