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手塚先生のライバル意識みたいなことについては、どうです?例えば『風の谷のナウシカ』を観なかったという話もありますけど。
高見
宮崎駿さんには、かなりライバル意識が・・・・あったという話を聞いたことがあります。
石坂
宮崎さんに関しては、直接は聞いてませんけど、あとからいろいろ、みんなに確認したんですね。結局、直接『ナウシカ』を観たなり、批評なりしないかわりに、暗にね「今のアニメ界はもう、人にはまかせられない」みたいなことを言ってるんですね。
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自分で、やりたくてしょうがなかったんじゃないですか?
石坂
うん、それもね。
吉住
本当は、認めてましたよね。
石坂
すごくくやしかったみたい。先生は、くやしがって批判しちゃうタイプだと思う。
堀田
あれはやっぱ、天才の癖なんじゃないかな。
高見
他のマンガ家のことをね、ずいぶん気にされてたみたい。
石坂
ムキ出しなんですね、ライバル意識が。それで一回、びっくりしたのがね、何人かの若手マンガ家が、先生主催のチャリティ会に呼ばれて来ていて、つまり先生が接待してる形でのパーティだったんだけど、大友克洋さんが出て来たばっかで注目されてた時だったのね。そこで、先生が大友さんにね「ボクあなたの絵、見ました」って言ったの。「マンガをね、虫メガネで見たけど、それでもデッサンが狂ってませんね。スゴイですね!」って言って、「でもボクね、あの絵、描けるんですよ」って言うわけね(笑)、大友さんの目の前でね。それで、うわァーなんて思ってたんだけど、「ボクはね描こうと思えば誰の絵でも描けるんですよ。描けないのはね・・・・」で、二人名前言って、一人は諸星大二郎って言ったんですけど。・・・そういう話はね、半分は本当だと思うのね。描こうと思ったら描いちゃいそうな感じあるし。ただ、よく大友さんの前で、ねェ(笑)。私は大友さんの絵、スゲエなァって思ってましたからね、わあ、言うもんだなーって思っちゃって。
吉住
中央公論のね、藤子不二雄さんの全集が出た時は、落ちこんでました。
石坂
本当に?
吉住
「しばらくボクを一人にしといて下さい」って(笑)。
石坂
へえー。
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ライバルとしては、一番初期に福井英一が登場しますけど、福井さんは、手塚先生とは全く違ったスポーツ物を描いていたわけですけど、その後も手塚先生はほとんどスポーツ物は描いてませんよね。
堀田
弱点かも知れないね、それが。
石坂
昔ね、『あしたのジョー』だか『巨人の星』だかを持ってきて、アシスタントの前にバンッて置いて「みんな、これがどうして面白いのか、教えてくれ」って言ったらしいよ。
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白土三平じゃなくて?
石坂
スポーツ物の方です。・・・ただ、スポーツはね、もっと素朴に、先生は運動がそんなに好きではなかったからなんではないかという・・・・。西武ライオンズの、あのマーク。あれはちょうど私たちがいる頃に描いたんだけどね、レオちゃん、あれが・・・。
堀田
バットの持ち方でしょ(笑)。
石坂
そう、投げる手とバットの持ち方が左右全部逆に描いちゃったんですよ(笑)。逆版で使ったはずですよ。
堀田
あまりスポーツのことわかってないんだよね(笑)。
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マンガ家にとっての弱点、というと、編集者というような場合もありますが(笑)。
石坂
白井さん(ビッグコミックスピリッツ編集長)に聞いた話なんだけど、昔ね、白井さんが先生の自宅に原稿取りに行ったんだって。自宅なら絶対いるからって。で、車つけるとわかっちゃうから、車はだいぶ手前で停めてね。歩いて近づいたらしいんだけど、それでも2階の灯りがフッと消えたらしいのね(笑)。で、絶対いるの。わかってるから、奥さんに「どうもすみません、ちょっと行きますから」って言って、足音をたてないで階段を上がって、2階のドアの前に行ったら、それよりももっと音をたてないで、ドアの下からツーッと原稿が出て来たって(一同爆笑)。
堀田
わざわざ灯りを消すとこがすごいね。
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藤子Aさんの『まんが道』でも、灯りを消すシーンが何回か出て来ますよね。
堀田
今の先生の家に原稿取りに行くことが僕も何回かあったんですね。タクシーで行ってたんですけど、灯りがついてね、「あ、まだ先生起きてるな」と思ってさ、タクシー停めると、パッと電気が消えちゃうの。庭から上がるにも電気が消されてて、まっ暗だからさ。で、何でオレ編集でもないのに消しちゃうんだろうなってブツブツ言いながら行くわけ。で、呼び鈴をピンポンってやるでしょ。そうすると、先生のお父さんが出てくるのね、ステテコか何かはいて。で「手塚プロのアシスタントですけど」って言うと「あーご苦労さん」なんて言われて、そこへドタドタドタって3階から先生が降りてきてね、ステテコ一丁で出てるお父さんを見てさ、すごい恥ずかしがるんですよ。「やめて下さい!こんなかっこで」なんて言って横に倒すんだよ(笑)。でさ、パッと渡してパッと帰すの。でね、電気消すのって、あれ、わざとやってるとしか思えないでしょう。車がパッと着いて、その音だけで消してるから。
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条件反射とか。車イコール編集者。
石坂
そうかも知れないね。必要以上にさ、邪魔される気がするんだと思う。気分的に。
堀田
でも、庭の電気まで消しちゃうんだもんなァ。3階にメインスイッチがあるんじゃないですかね。で、誰か来たら、全部消しちゃう。
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不自然だとは思ってなかったんですか先生としては。
堀田
先生は、けっこう不自然なことを平気でやっちゃうんだよね。
吉住
机の下に隠れたってバレますよね(笑)。
堀田
バレるよね(笑)。窓から抜け出したって見えるしね(笑)。
石坂
カンヅメしてるところからいなくなって、編集者が探し回ってて、とんかつ屋の店内をパッと見たら先生がいてさ、「先生!」って声をかけようとしたら、先生がね、テーブルの下に隠れちゃったっていうのがね、本当にあって(笑)。
堀田
でも、映画はずっと観てたらしいですね。いつ抜け出るか、わかった?
石坂
わかんなかった。でも、パール座なんか、よく行ってたらしいですね。
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