「送り迎え、ご苦労様であります」
おどけた仕草で、五月がぴっと敬礼をした。
幼馴染の五月は大人しく恥かしがりやで、人前でふざける事は滅多に無いのだが、
俺と二人きりの時だけは、ときどきこうやって子供のようにおどけてみせる。
「家に帰るまでが下校だ。寄り道しないように」
俺も五月の真似をして敬礼しながら言う。
「ラジャーであります」
軽くはにかみながら、五月はT字路を左に曲がり、自宅へ向けて歩き出した。
小さくなるその背中を、暫く見つめる。
恐らく五月は、俺に幼馴染以上の好意を抱いてくれている。
俺だってこのままずっと、ただの幼馴染でいるつもりなんて無い。
だが、こうやってもう10年以上も幼馴染の関係を続けていると、どうやって1歩踏み込めばいいのか
俺には分からなかった。
「まあ焦る必要は無いか…」
結局いつもどおりの結論を得て、俺は帰路へ着いた。
五月とは毎日顔を合わせてるんだ。
チャンスなら幾らでもある。
そう思っていた。
その日、五月は失踪した。