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特集ワイド:米大統領選 オバマ氏勝てば…「日本たたき」心配なし

 米国では民主党と共和党の党大会が相次いで開かれ、11月の大統領選へ向けて選挙運動が本格化している。民主党のバラク・オバマ氏(47)が勝利したら、米国の施策はどう変わるのか。住友商事総合研究所のシニアアナリスト足立正彦氏(米国政治)に、オバマ氏を支えるブレーンの顔ぶれから分析してもらった。【國枝すみれ】

 ◆住友商事総合研究所シニアアナリスト・足立正彦氏分析

 ◇貿易赤字全体の3割 中国標的か

 ◇保護主義への懸念は 自由貿易軸

 ◇単独主義からの転換 対話外交へ

 民主党といえば、クリントン政権初期の「日本たたき」。対日貿易赤字に端を発した日米摩擦の悪夢がよみがえる人も多いだろう。オバマ政権が誕生したら日本たたきは再燃するのだろうか。

 足立氏は苦笑した。「クリントン時代に日米関係が冷え込んだことをトラウマとしてひきずる日本人は多いですね。でも今回はあまり心配しなくていいと思います」

 足立氏によれば、日本たたきが起きた94年、米国の対日赤字は貿易赤字全体の4割に達していた。いまは、米国のターゲットになるのはむしろ中国だという。米商務省統計によると、今年4月の貿易赤字600億ドルのうち、その3分の1は対中国貿易赤字だからだ。また、民主党には「サンフランシスコ・デモクラット」と呼ばれる人権重視派がいる。ペロシ下院議長らがチベット問題などで中国と対立し、中国を経済的・軍事的脅威とみる共和党の反中派と連携して「中国たたき」が始まる可能性もあるという。

     ■

 対アジア外交の中心は日本に置くのか、それとも中国に軸足を移すのだろうか。

 オバマ氏の政策顧問・スタッフの顔ぶれを分析した足立氏は「中国重視になるという懸念を打ち消す布陣」と話した。

 対日政策顧問には、モンデール元副大統領、フォーリー元下院議長という2人の元駐日大使が名前を連ねる。他にも、防衛研究所(東京都目黒区)で研究していたマイケル・シファー氏や、日本人の妻を持ち、滞日歴約20年のボーイング・ジャパン前社長のロバート・オアー氏といった人物がいる。足立氏は「オバマの政策顧問・スタッフには日本語を流ちょうに話す知日派がいる。日米間のパイプは細くならない」という。

     ■

 民主党の主な支持基盤は、ハリウッドの映画業界、法曹界、そして労組だ。米国の工場労働者は企業の海外進出などで打撃を受けている。民主党左派が実権を握れば、保護主義へ傾斜する可能性はないだろうか。

 「民主党の経済政策は中道化する。オバマ政権の経済政策は、自由貿易主義に軸足を置いた上で、社会のセーフティーネットを作るという方向に進む」と足立氏。

 鍵となるのは、今年6月にオバマ氏の選挙対策本部の経済担当ディレクターに就任したジェーソン・ファーマン氏(37)だ。自由貿易主義、市場重視で経済成長を志向する人物だという。ファーマン氏は、クリントン政権を支えたルービン元財務長官の秘蔵っ子で、ハーバード大での指導教官はサマーズ元財務長官だった。この3人は民主党系シンクタンク「ブルッキングス研究所」で、失業者の職業訓練や失業保険の拡充を含んだセーフティーネットを整備し、国際競争力強化を目指し教育改革を推進するプロジェクトを立案していた。「サブプライム問題が深刻なのですぐには打ち出せないかもしれないが、彼らの基本方針は、米国は保護主義の誘惑に逃げ込むべきではない、競争していかないとだめ、というものだ」(足立氏)

     ■

 ブッシュ政権の外交は他国の意見を聞かずに物事を決める「単独主義」だった。「オバマ氏が政権を取れば、外交は対話路線、同盟国との国際協調主義に戻る」と足立氏は説明する。

 最も大きく転換しそうなのが中東政策だ。「イラク戦争は間違い。(アルカイダの本拠地となった)アフガニスタン戦争を重視すべきだ」と主張するオバマ氏に対して、共和党の大統領候補のジョン・マケイン氏(72)は「イラクへの(兵力)増派は成功した。オバマ氏は軍の統率者として不適切」と真っ向から対立しているからだ。

 足立氏が注目する点は、オバマ氏の安全保障関連のブレーンに、穏健派のリアリスト(米国の国益を外交の中心に考える現実主義者)が多く、共和党の同グループと交流があること。例えば、ブレーンの一人であるリー・ハミルトン元下院議員はイラク戦争を見直そうと超党派議員で作ったイラク研究グループの一員で、共和党のべーカー元国務長官と一緒に報告書を書いた。サム・ナン元上院議員(民主党)も昨年、共和党のキッシンジャー、シュルツ両元国務長官と一緒に「核兵器のない世界を」という論文を新聞に投稿している。

 一方、マケイン氏のブレーンは意見の異なるグループが混在している。外交顧問にはスコウクロフト元大統領補佐官やイーグルバーガー元国務長官らリアリストの名が並ぶ。しかし、外交政策コーディネーターは「イラク解放委員会」創設者のランディ・シュネマン氏。外交顧問にはウィークリー・スタンダード誌のウィリアム・クリストル編集長らネオコン(新保守主義者)の名前もずらり。彼らは中東全域の民主化論を掲げ、イラク戦争を推進した人々だ。

 04年の選挙と比べて、共和党にとって悪材料が積み上がっている。イラクとアフガニスタンで二つの戦争を抱え、経済はサブプライム問題で悪化。ブッシュ大統領の支持率は5月には28%まで下落。共和党員の民主党へのくら替えも進んだ。ニューヨーク・タイムズ紙によれば、26州とコロンビア特別区だけで04年から共和党員は約140万人も減り、民主党員として新たに選挙人登録した国民が約21万人増えた。集まった献金は7月時点で、オバマ陣営が約5200万ドル。マケイン陣営は2200万ドルに過ぎない。

 それでも、世論調査でオバマ氏とマケイン氏は競っている。軍の最高司令官であり国のシンボルである大統領を選ぶことは、政党選びとは違うのだ。

 足立氏の結論はこうだ。「今選挙は最終的にはオバマ氏への信任投票となる。米国民がオバマという人物に国を任せられると感じれば民主党が勝つ。しかし、経験不足で危険と感じるなら共和党に票が流れる」

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 <オバマ陣営のブレーンと支援者>

 大統領候補  バラク・オバマ   上院議員

 副大統領候補 ジョゼフ・バイデン 上院議員(外交通)

 ■選対本部(イリノイ州シカゴ)

 トム・ダッシュル         民主党前上院院内総務

 ■政策顧問・スタッフ

 ▽安全保障政策

 リー・ハミルトン元下院議員

 サム・ナン元上院議員

 ▽外交政策

 ウォルター・モンデール元駐日大使

 トーマス・フォーリー元駐日大使

 ▽経済政策

 ジェーソン・ファーマン      ブルッキングス研究所研究員

 オースタン・グールズビー     シカゴ大教授

 ■ハリウッド映画業界など

 スティービー・ワンダー      歌手

 オプラ・ウィンフリー       司会者

 スティーブン・スピルバーグ    映画監督

 ジョージ・クルーニー       男優

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 ◇「特集ワイド」へご意見、ご感想を

t.yukan@mbx.mainichi.co.jp

ファクス03・3212・0279

毎日新聞 2008年9月4日 東京夕刊

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