桜井淳所長に拠れば、桜井所長が一時期一緒に仕事をしたことがある、数歳年上のSは、指数法による未臨界度測定をライフワークとしていましたが、査読付論文の数が非常に少なく、現役人生のそのほとんどを自身が理解を得るための「研鑽」や「勉学」と称する活動のために費やしており、いわゆる査読付論文として位置づけられる論文はわずか2編しかなく、その残りは国際会議論文や組織内報告書だけで、そのまま定年退職しましたが、桜井所長によれば、国際会議論文は、論文テーマについての審査だけで内容は審査されないために、これらは査読付論文には値しないそうで、査読付論文が一定数なければ昇格させないというその組織の昇格基準は研究者にとっては大変厳しいものの、研究者を厳しく鍛え陶冶するという意味では非常に妥当なものと考えており、ところが最近昇格基準が緩和され、国際会議論文も査読付論文と同格に位置づけられるようになったそうで、そのためあまり努力をしない研究者や論文の書けない無能な研究者が安易に昇格するようになっており、研究水準の低下を招くことを桜井所長は懸念しているそうですが、やはり論文の多い人というのは見えないところで猛烈な努力をしているもので、イチローはたやすく安打を打っているようで、実は寮の部屋の床に穴が開くくらい素振りをしていたというのは有名な話で、Sの属した研究グループは伝統的に論文の数が非常に少なく、数少ない例外としてIがいましたが(Iは常々「年二本の査読付論文が書けないとだめだ」と豪語してたそうです)、すぐに大学に転出してしまったそうで、それもやむを得ないのかもしれませんが、マルクス主義的にいえば給与というのは労働の対価であると考えると、研究者というのは論文を書いて学術の進展に貢献して初めて仕事をしたと言えて、その対価として給料をもらう資格があるのであって、野球選手でいえば、打撃練習でいくら本塁打を放とうか、試合で安打が出なければまったく何も仕事をしなかったとみなされ戦力外通告を受けるように、施設管理や許認可業務のノルマがないにもかかわらず3年間に1本も査読付論文(国際会議は含まない)が書けない研究者は、もはや研究者として給料をもらう資格はなく、もしもらっているとしたら給料泥棒で、管理部門などへ異動させるような大胆で柔軟な人事制度が必要だという組織論を持っているそうで、Sが未臨界研究をやっていたことはこの分野にとっては不幸なことだったそうですが、桜井所長は未臨界研究のパラダイム転換を促すために、かつて日本原子力学会誌に掲載した技術報告「指数実験およびモンテカルロ計算によって評価された未臨界度の比較」(原子力誌、Vol.40, No.4, pp.52-59(1998))を復刻させ(昔は、技術報告と原著論文に分けて掲載されていましたが、いまの論文誌では、両者に差がないとして、原著論文となっています)、臨界ではなく未臨界体系での高精度の実効中性子増倍率(keff)バイアス評価に乗り出そうとしているそうで、そのためにはYが案出したMCNPのガンマ固有値モード計算機能("An algorithm of α- and γ-Mode eigenvalue calculation by Monte Carlo method", Proc. 7th Int. Conf. Nucl.Criticality Safety ICNC2003, Tokai, Ibaraki, Japan, Octber 20-24, 2003, pp.590-594(2003))を使うことが必要だそうで、この機能は非常に斬新だと桜井所長は考えているそうですが、Yの案出したウィーラント法(Wielandt method)に比べて世界的にあまり注目されていないのは不思議だそうで、Yに拠ればこの研究は組織内で評価されず危うく抹殺されそうになったことがその原因だそうで、さらに桜井所長は、ガンマモードでの中性子スペクトルは高速群のインポータンスが大きくなっているのに対して、keffモードの未臨界の中性子スペクトルも核分裂項をkeffで割るためにガンマモードと同様に高速群のインポータンスが拡大されているので、両モードは互いによくマッチングしており、ガンマ固有値モードを未臨界研究の中心に据えることを目論んでいるそうですが、それによって未臨界制限値としてのkeff=0.95などの妥当性を論証する哲学を展開したいそうです。