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天声人語

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2008年9月4日(木)付

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 「鉄の女」でさえ、と言うべきか。英国のサッチャー元首相が認知症との報道に、時の流れを感じる方もおられよう。国を率いた現役時代、彼女は政治について、「予期しないことが起こると、いつも予期していなければいけない」と言っていた(『政治の品位』内田満)▼日本で言う「一寸先は闇」だろう。ところで今回、福田首相の政権投げ出しが、かの人にもその寸言どおりだったかどうか、気にかかっている。麻生太郎自民党幹事長のことだ▼ひと月前、福田氏に熱望されて幹事長役を受けた。そのときすでに「福田後」のやりとりがあったそうだ。2人が「あうん」の間柄になっていたと聞けば、やはり国民より党利党略、何が安心実現内閣か、と不信感はいや増す▼総裁選の日程は、まるで計ったようだ。告示から選出まで、先に決まっていた民主党の代表選に、皆既日食のように重なる。女性候補も出馬をめざす「自民劇場」に対し、「民主座」は地味な一人芝居になるらしい。前者の影に後者はかすむ。そんな見方がもっぱらだ▼政治を巡る寸言は古今に多く、「政治とは妥協の芸術」というのもある。妥協と言えば聞こえは悪いが、折り合える最善の解決を見いだしていく営み、ということだろう。首相ともなれば、強靱(きょうじん)なリアリストにしか務まるまい▼「再選されることばかり考えていると、再選に値するのが難しくなる」も味わい深い。毎度の「政策より政局」では期待もしぼんでしまう。「再選」を「政権維持」に置き換えれば、与党の標語にもなるだろう。

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