「またか」「やはり」というのが大方の受け止め方だったろう。8月に大麻所持で逮捕された間垣部屋の若ノ鵬に続いてロシア出身の2人の現役力士に大麻汚染の疑いが浮上した。
今度は大嶽部屋の露鵬と北の湖部屋の白露山の兄弟力士だ。2人は日本相撲協会が2日、十両以上の全力士を対象に実施した抜き打ちの尿検査で大麻の陽性反応が出た。
警視庁は2人から事情を聴く一方、2人が所属する相撲部屋など3カ所を大麻取締法違反(所持)容疑で家宅捜索した。
大麻取締法は大麻を使用しただけでは罰則規定がない。精密検査の結果を待ちたいが、2人は大麻の使用も所持も全面的に否定しているという。副流煙による「陽性」の可能性もあるようだ。潔白を主張する2人を信じたいが、若ノ鵬と親密なつきあいをしてきた2人なので疑いの目を向けざるを得ない事情もある。
3人は同じロシア・北オセチア出身。兄弟の父が教えるレスリング道場に若ノ鵬が通っていたつながりもある。相撲界に入門後も3人は親しくしていたという。一番若い若ノ鵬だけが大麻に手を出していたとは考えにくい状況だ。
また、副流煙の影響だとすれば、つい最近、大麻を吸っていた人物と至近距離で接していたことになる。同郷の若ノ鵬の事件を深刻に受け止めていなかった証しにもなる。
さらに驚いたのは、白露山の師匠である北の湖理事長の対応だ。報道によると「疑いがあるようならよく調べてもらった方がいい」と、まるで人ごとのような発言しか残していない。
若ノ鵬の事件後、北の湖理事長は鈴木恒夫文部科学相に「ファンあっての相撲道。信頼に応えられるよう真剣に取り組む」と再発防止を約束したばかりだが、この対応では真剣味を疑われても仕方あるまい。
財団法人日本相撲協会は公益法人として税制面でも優遇を受けている。その自覚が北の湖理事長にあるのだろうか。
昨年来、トラブル続きの相撲界だ。週刊誌の「八百長疑惑」をめぐる裁判が継続中で、時津風部屋の力士死亡事件で元親方らが逮捕される不祥事も起きた。横綱朝青龍が巡業をすっぽかし、モンゴルでサッカーに興じていた騒動もあった。
この間、北の湖理事長は「弟子の指導は師匠の責任」と突き放し、協会トップとしての責任を回避し続けてきた。今回はおひざ元の北の湖部屋から疑惑力士が出た。師匠としての責任も問われる。
文科省からは「外部から理事を招くように」と指導されている相撲協会だが、「まず規約の改正が先」と先送りしている。「外部理事」はもちろん必要だが、それよりもまず、「外部から理事長」を招いて相撲界を根本から立て直す必要があるのではないか。
毎日新聞 2008年9月4日 東京朝刊