医療事故の報告範囲を再通知―厚労省
医療事故に関する情報を医療機関から収集し、事故原因を分析している財団法人・日本医療機能評価機構の「医療事故情報収集等事業」に関し、厚生労働省はこのほど、同機構への報告が義務付けられている医療機関に対し、「報告すべき事案の範囲」について周知徹底を図るよう求める通知を出した。厚労省の担当者は「大野病院事件や医師法21条の議論とは全く関係がない。有用な情報を積極的に出していただき、事業の一層の充実を図りたいという趣旨」と話している。
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用語解説「医師法21条」
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通知では、「医療事故情報収集等事業」に関し、厚労省が2004年9月21日付で出した通知(医政発第0921001号)を「御確認いただき、事故等事案を報告されるよう宜しくお願いします」としており、報告が必要な事案の範囲について変更がないことを確認している。
「医療事故情報収集等事業」は、医療事故の原因究明や再発防止に当たる第三者機関(医療安全調査委員会、仮称)の創設に向けたモデル事業として、日本医療機能評価機構が04年から実施している。医療法施行規則により、報告義務のある医療機関は、特定機能病院など273施設(07年12月31日現在)で、事故などの報告があった施設数は、05年176施設、06年195施設、07年193施設となっている。
同事業では、診療行為に関連した死亡のうち、報告すべき医療事故の範囲について定められている。それによると、報告が必要となる場合の一つとして、「誤った医療または管理を行ったことが明らかではないが、行った医療または管理に起因して患者が死亡し、もしくは患者に心身の障害が残った事例または予期しなかった、または予期していたものを上回る処置その他の治療を要した事案」が挙げられている。
つまり、医療行為に過失があったかどうかが不明でも、「予期しなかった」場合は報告が必要な事案であるとしている。医療安全調査委員会の創設に向けた厚労省の検討会でも、同様の基準に基づいて議論が進められていた。ただ、「予期」の意味が、「死亡という結果の予見可能性」か、それとも「因果関係の相当性を判断する際の予見可能性」かは明確になっていない。
■大野病院事件の判決とは関係がない?
産科医が無罪となった大野病院事件の判決では、医師が癒着胎盤と認識した時点で、「胎盤剥離を継続すれば、現実化する可能性の大小は別としても、剥離面から大量出血し、ひいては、本件患者の生命に危機が及ぶおそれがあったことを予見する可能性はあったと解するのが相当である」としている。
このため、死亡に対する予見可能性を認めた大野病院事件を「医療事故情報収集等事業」の要件に形式的に当てはめると、「報告すべき事案に該当する」という解釈もあり得ることが指摘されている。
また、医師法21条の「異状」の解釈について、大野病院事件の判決は「診療中の患者が、診療を受けている当該疾病によって死亡したような場合は、そもそも同条にいう異状の要件を欠く」としている。その一方で、「死亡という結果は、癒着胎盤という疾病を原因とする、過失なき診療行為をもってしても避けられなかった結果といわざるを得ないから、本件が、医師法21条にいう異状がある場合に該当するということはできない」とし、過失の有無と「異状」の判断とを完全に切り離してはいない。
このように、医療事故情報の収集事業における報告すべき範囲と、大野病院事件の判決が示した届け出の範囲は異なっているようにも考えられるため、医療事故の届け出範囲をめぐって混乱が生じる恐れがあることが懸念されている。
しかし、今回あらためて04年9月の通知を示した狙いについて厚労省の担当者は、「大野病院事件や医師法21条の議論とは全く関係がない」と強調している。今年8月に「医療事故情報収集等事業」に関する07年年報が公表されたことを受け、「今後も有用な情報を積極的に出していただき、事業の一層の充実を図りたいという趣旨。対象病院には、幅広く情報を出してもらいたい」と話している。
詳しくは、厚労省のホームページで。
http://www-bm.mhlw.go.jp/topics/bukyoku/isei/i-anzen/hourei/index.html
【医政局発の通知のPDF】
http://www-bm.mhlw.go.jp/topics/bukyoku/isei/i-anzen/hourei/dl/080902-1.pdf
更新:2008/09/03 18:18 キャリアブレイン
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