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2008年9月4日

◎パリで金沢発信 「文化の真価」伝える努力を

 金沢市は今年十月にフランスのパリで開催される日仏観光交流セミナーで伝統工芸や食 の魅力を発信し、来春のフランス最大規模の旅行博覧会にも初めて出展することになった。

 昨年四月には兼六園がフランスの「ミシュラン」日本版観光地ガイドで最高ランクの「 三つ星」に選ばれている。これを追い風にフランスの人々に金沢の魅力を知ってもらい、観光につなごうというものである。

 パリでは金沢の文化の真価をアピールしたい。パリが世界一のあこがれの都であった時 代は過ぎたのだが、フランスには日本の美術や俳句をいち早く見出し、高く評価してきた伝統がある。

 今年の大型連休中、フランス・ナント市で町おこしを兼ねて始まった「ラ・フォル・ジ ュルネ音楽祭」の日本での開催地の中に金沢が選ばれ、「金沢熱狂の日」として開催されたのもそうした伝統があるからだったと思いたい。この際、こうした動きに合わせて、金沢の文化について外国人が指摘したものを調査し、分かりやすく発信したらどうか。

 たとえば、ベルリンの壁が取り除かれた翌年の一九九〇(平成二)年の秋、今は亡きハ ーバード大名誉教授のガルブレイス氏が夫人とともに小紙の招きで金沢を訪れた。経済学に文明論を加味したその鋭い感覚で金沢の特質を「美に対する優れた感受性」だと指摘し、資本主義が成熟期に入ると、美の産業化が進み、金沢はそれに向いていると助言した。

 日本の陶磁器や建築などの美しさに感嘆し、日本の美術教育や文化行政にかかわったフ ェノロサや、加賀藩が建築に貢献した桂離宮を「世界的奇跡」と激賞したタウトら多くの外国人による日本再発見がある。

 俳句をヨーロッパに初めて本格的に紹介したのはフランスの哲学者で精神科医ポール= ルイ・クーシュ(一八七九―一九五九年)で、加賀の千代女の句を憐憫(れんびん)の情や花を慈しむ気持ちのまことに繊細な魅力と紹介しているのだ。そうした中から、ガルブレイス氏のように金沢の特質にずばり触れたものを探し出したい。

◎止まらぬ不祥事 相撲界は改革を急がねば

 ロシア出身の元幕内力士、若ノ鵬が大麻取締法違反容疑で逮捕されたことを受けて、日 本相撲協会が十両以上の全力士に対して実施した抜き打ち尿検査で同じロシア出身の露鵬とその弟の白露山の二人から大麻の陽性反応が見つかった。陽性反応は他人が吸引した副流煙を吸っても出る場合があり、事実をはっきりさせるために精密検査が行われている。本人が吸引しなくても吸引者のそばにいた可能性もあり、相撲界は重大に受け止めてほしい。

 兄弟力士はともに「身に覚えがない」と薬物使用を否認しているそうだが、通報を受け た警視庁は大麻取締法違反の疑いで二人から事情聴取するとともに所属する部屋の個室などを家宅捜索した。弟の白露山は協会理事長が師匠の北の湖部屋の所属というのも深刻なことである。

 この一年に、横綱朝青龍の無断帰国や、時津風部屋での「かわいがり」と称して行われ た力士暴行致死事件が起きており、不祥事が止まらないという格好だ。ファンに対する裏切りであり、相撲界は危機意識をもって協会理事に外部の人材を登用するなど懸案の改革を急いでほしい。

 相撲部屋は五十三にも達し、弟子への目配りが行き届きにくくなったと指摘されている 。外国人の入門が増え、番付の上位を占めるようになった国際化によって教育が一層難しくなっているようだ。

 相撲にも「自分との闘い」ということが他の分野と同様に厳しく求められるのだが、そ れが希薄になったこともあるのだろう。相撲は心技体を究める日本の伝統であり、優れた様式美でもある。その伝統がここにきて大きく揺らいでいるのである。伝統を引き継ぎ、さらに発展させることは相撲界に限らず、どの分野でもなかなか難しいことである。

 かつて名横綱といわれた双葉山が六十九連勝を続け、安藝ノ海にその連勝を阻まれたと き、「われ未(いま)だ木鶏(もっけい)たりえず」との至言で心境を吐露したことがある。こうした境地を若い力士にどう教えるか。協会の指導者も自らを磨いてほしい。


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