チャンゴのひとりごと

一言メッセージ :ご訪問ありがとうございます。普段の生活で起こったことや感じたことの記録です。

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退職勧告 -37-

ついに、北野、小笠原、中田の3人に退職勧告が出される当日がやってきた。
すでに3人には昨日のうちに夕方、時間を空けておくよう人事部長の江藤から通達が出ていた。何も知らずのんびりと構えている北野とは対照的に、小笠原と中田は入念な準備をしながらも緊張した表情でその時を待っていた。
そして大半の社員は、今、会社の中で大変なことが起ころうとしていることなど知る由もなかった。

何気ないふりを装いながらも仕事に集中できるわけもなく、周りの様子を観察していると、まず落合社長と江藤が会議室に入った。打ち合わせでもしているのだろうか、そのまま数分が過ぎた後で江藤がオフィスに北野を呼びに来た。
30分弱くらい入っていただろうか、北野が出てきた。手には勧告書と思われる書類を持っていたが表情を見る限りそれほど動揺の様子はなく、自席に戻ってすぐに仕事を再開した。

再び江藤が出てきて、小笠原を呼んだ。自分の緊張感がぐっと高まってきた。
北野と同じであれば30分くらいで戻ってくるはずだったが、一時間以上経っても戻ってこない。いったい何を話しているのか。すでに勤務時間の定時を過ぎ、帰宅する社員も出始めた。まったく仕事も手につかず、そうかといってもちろん帰るわけにもいかない。
ただイライラしながら安子の席へ行って油を売ったり、あれこれと遅い理由を想像したりしながら時間を潰すしかなかった。

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退職勧告 -36-

最初は何の話か見当がつかず、大事な話ということでとりあえず姿勢を正して耳を傾けた。
「今回の勧告のことで、江藤さんから何か聞いているだろう?」
数週間前に一部の社員が、落合社長から尋問まがいのことをされたことを知っていた。その時、営業部長の就任キャンセルが、発表前であるにも関わらず派遣社員にまで知れていたという事実を落合が気にしていたと聞いていたので、この話で様子を探ることにした。

「営業部長がいらっしゃらなくなった件ですか?」
落合がキッパリと言った。
「違うよ。チャンゴさん自身のことだ」
さすがに驚いた。直前まで自分自身が退職勧告を受ける対象者であったことは人事部長の江藤から聞いて知っていた。まさかその話を落合が嗅ぎつけているとは思っていなかった。
「僕自身のことってなんですか?」
落合は自分のこの質問には答えず、さらに迫るように聞いてきた。
「こっちはちゃんとわかっているんだ。チャンゴさんから聞いたことは誰にも言わないから正直に言うんだ」
普段、どちらかというと温厚で怒った表情をすることが少ない落合が、真剣な表情をしている。これには自分も動揺した。しかし、いくら脅されても本当のことを言うわけにいかない。

「僕自身のことですか?」
「そうだよ!」
3度同じやり取りが繰り返された。ここまで来ると押し問答である。おそらく顔には動揺の色がはっきり出ていただろう。落合ももう少しで落とせると確信したに違いない。自分も一瞬、もうダメか、と思った。
それでも何とか口で認めることだけはせずにとぼけ通した。
「そうか、分かった。じゃあ、今日はこれ以上聞かない。その代わり、後でわかったら大変なことになるから覚えておきなさい」

何とか逃げ切れたようだ。だったらいっそのこと大変なことにしてくれよ、と思いながら、落合との会話を打ち切った。まずい昼食を取らされたあげく食費まで自腹で払わされて、最悪の気分のまま2人並んでオフィスへの道を歩いた。いくら上司とはいえここまでされると気を使う気にもならず、ただ黙って歩いていた。

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退職勧告 -35-

翌日、中田は通常通り出勤していたが小笠原は半日休暇を取った。ショックが癒えないまま、法律に詳しい知人をあたっているのだろうか。10月に自分が同じ立場に立たされたとき、やはり苦しい一日を送ったことを思い出していた。

そのような中、落合社長から昼食に誘われた。少し前まで切り捨てるつもりだったのに、残すと決めたら手の平を返すような懐柔策か。そのポリシーの無さにあきれ返ったが断る理由も見当たらない。仕方なく了解した。

オフィス近くのイタリアンレストランで並んで座ったものの、とりたてて話すことも無い。世間話で場を繕おうとしても、いつもどおり会話がかみ合わないもどかしさだけが残った。それで沈黙を避けるために、2日前に社長室で聞いた辛い話を蒸し返した。
例によって最初は苦渋の決断だったというような言い訳から始まったが、しだい落合の口ぶりが説教調に変わり、来年はお前がしっかりしないとダメだというような話になっていった。今年一年間、落合に理不尽な理由で怒られたことは何度もあったので、またこの調子かと思いながら聞いているふりを続け、時おり適当に返事をしていた。

そして、このまま何の面白みもない食事がもうすぐ終わると思って油断した矢先だった。
落合が予想外の攻撃をしてきた。
「これはとても大事なことだからよく聞いてほしい」

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退職勧告 -34-

江藤は、小笠原と中田に10月の自分のときと同じような話をした。
一見頼り無さそうな風体の江藤だが、さすがは百戦錬磨の人事部長である。彼らの動揺に気を配りながらも、淡々と伝えるべきことを話し続けた。そして2人も少し元気を取り戻し、聞けることはすべて聞こうと積極的に質問するようになった。

話し合いは続いた。
個人的には、昨日までの自分自身がそうであったように、納得しようがしまいが基本的に勧告に従い、あとはさらに有利な条件を引き出すことを考えるべきだと思っていたし、今、目の前にいる2人も最終的にはそう決断するだろうと予想していた。
しかし、2人の反応は違っていた。
特に、性格が一本気の中田は、自分に非がないと自信を持って言い切り、勧告されても従う気はないと言い放った。一方、優柔不断な面を持ちながらも要領の良さは抜群の小笠原は、かなり迷っているようだった。
そして、2人を後押しするかのように、従う必要などまったく無いと言い切る人事部長の江藤。
その場の空気は、勧告拒否の方へ流れていった。

テーブルを囲んでからすでに2時間以上が経過し、そろそろ帰ろうかという話になりかけると、小笠原が知人の弁護士に電話をかけて状況を説明し、勧告を受けたらその足で書類を見せに行くことを約束した。法律事務所での勤務経験がある中田に至っては、いくらでも相談できる弁護士がいるらしい。
「明日は仕事のことは気にせず、自由に動いて良いから」
自分以外の3人の怒気に気圧されて、ものわかりの良い先輩を演じるのが精一杯だった。

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退職勧告 -33-

本当に自分から話したことが正しかったのだろうか。小笠原、中田と話していながら、あまりの手応えの無さに不安を感じた。
そしてついに、話すべきかどうか迷っていたことを口にした。
「実は最初の予定では、俺にも一緒に退職勧告が出されるはずだったらしいんだ。でも川上課長が辞めることになっただろう。それで俺だけは残しておこうと判断したみたいだ」

2人のショックを少しでも和らげたい一心で、自分も10月に人事部長の江藤から話を聞いて今日まで苦しんできたこと、荒木課長が2人の勧告を救うために落合社長に直談判し、それでも無理だとわかると辞表を出したことなどを打ち明けた。
2人とも少し驚きながら聞いていたが、それでも彼らにとっては彼ら自身が被害者、自分は単なる傍観者でしかないのだろう。期待したほど彼らの態度に変化は見られなかった。

店に入ってから30分以上が経過し、2人も苦しそうな表情をしながらも今後の対策について話せるようになってきたころ、江藤が到着した。
「お疲れさまです。概要は話しておきました。詳しいことをあらためて江藤さんから説明してもらえますか」
江藤が座るや否や、到着を待ちわびていた自分がまず話しかけた。とにかくこの重荷を誰かの手に預けたかったのだ。

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