チャンゴのひとりごと

一言メッセージ :ご訪問ありがとうございます。普段の生活で起こったことや感じたことの記録です。

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退職勧告 -27-

大きなショックを受けながら、社長室を出た。
思い出しても、上手な演技ができたとはとても思えない。もともと情報漏れを疑っている落合社長のことだから、自分の反応から何かを感じたかもしれない。だが今はそんなことはどうでも良かった。
退職勧告は実行される。その中に自分は入っていない。
そのことは今度こそ延期でなく、自分が退職勧告を受ける可能性の消滅を意味していた。

あと一度だけ辛い思いをすれば、その先にあるのは解放感のはずだった。あと数日だけ面倒な仕事と向き合っていれば、その先に長い休暇が待っているはずだった。先にある楽しみだけを支えにこの2か月間がんばってきたのだ。
そのすべての希望が崩れ去った瞬間だった。

自分だけが勧告対象から外れた理由が、川上課長の辞表にあるのは明らかだった。
先の落合社長との面談では、川上の退職のことも話題になった。発表こそされていなかったが、落合はすでに慰留をあきらめ、年内での退職は事実上決まっていた。つまり、当初は川上に果たしてもらう予定だった役割が空きポジションになり、そこに自分が入ったというわけだ。
途中経過を知らずにいきなり結果だけ聞かされたのであれば、自分から見ても常識的な人事配置である。しかし仕方なく残留という裏事情を知ってしまっている以上、落合の無策ぶりにあきれるしかなかった。

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退職勧告 -26-

「3人ほど辞めてもらおうかと思っている」
3人? またしても意外なひと言だった。4人ではなかったかと思ったが、これも表情に出すわけにいかない。しらばっくれて、誰なのかと聞いた。

「まずは北野さんだ」
これは聞いていた通りだった。この勧告の話が最初に出てからすでに2か月近くが経過しているが、その情報を入手した社員の間で話題になるのは専ら小笠原、中田、チャンゴの3人。北野はまったく忘れられた存在で、今回の勧告予定のメンバーの中でも唯一誰からも同情を受けていなかった。

次の言葉はさすがの落合も少し言いにくそうだった。
「後は小笠原くんと中田くんだ」

何ということか!
この社長室に入って以来、新しい部長のサポートをしてほしいとか、退職勧告者の人数が4人から3人に減っていたりとか、落合の口から予想外の言葉が出てきていたが、そのすべてがここで繋がった。
自分一人が勧告予定メンバーの中から外れたのである。

この2か月で何度めのショックだろう。またしても自分の運命が変わっていくのを感じながら、今はそれを考えることを後回しにして、この面談を無事に切り抜けるという使命を果たすことだけに集中しようとした。
この場合、彼らの先輩としてそんな措置には到底納得できないと怒るのが自然な反応というものであろう。だが、茫然自失としながらそれを悟られないようにという意識だけが強く働き、絞りだすように小さな声を出すことしかできなかった。

「理由は何ですか?」
勧告の理由などすでに人づてに聞いていたから興味もなかった。自分の不自然な反応に気づいたかどうかは知らないが、落合は自分勝手な論理で理由を説明していた。
そんなことじゃない、聞きたいのは自分を外した理由だよと心の中で叫んでいた。

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退職勧告 -25-

ひと息ついてから社長室に入ると、まずドアを閉めるよう指示された。

ドアを閉めて落合社長の正面に座ると、話が2つあると言われた。

「1つめは営業部長のことだ。1月から新しい営業部長が来ることが正式に決まった。今年チャンゴさんには、急にリーダーの代役をつとめてもらったりして大変な思いをさせたが、来年はしっかりした人にトップをつとめてもらう。それでも最初は何もわからないだろうから、彼ができるだけ早く仕事を覚えてリーダーシップを発揮できるようサポートしてもらいたい」
意外な話だった。新営業部長着任の件は噂に聞いていた。しかし自分はクビになるはずではなかったのか。それとも退職勧告を再延期して営業部長が慣れるのを待とうという魂胆か。
落合の真意を測れず混乱しかけたが、今は何も知らないふりをして聞くことが自分の役割である。あまり深く考えずに、わかりましたと答えた。

「もう1つだが、実はこれは少し言いにくい話だ」
やっぱりそうか、と思った。1つめの話との矛盾点は引っかかったものの、やはり落合は退職勧告に踏み切るのかと予想しながら次の言葉を待った。

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退職勧告 -24-

もうひとつ気になることがある。一緒に勧告を受けると言われている小笠原や中田のことだ。
自分が知る限り、自分以外の人間が落合社長から呼ばれた様子はなかった。川上課長の辞表が功を奏し、自分だけが勧告を突きつけられるのか。それとも自分がオフィスを出た後で、やはり同じように呼ばれているのか。
江藤との電話からは、この点についても手がかりを見つけることができなかった。

展示会場へ到着したが思いのほか自社ブースへの来客が少なく、すぐに昼食休憩をとることにした。
同じビルの中のカフェでサンドイッチを注文してから、もう一度、先ほどの秘書との会話、江藤との電話の内容を思い返してみた。今日、退職勧告されるのだろうか。いくら考えても見当がつかなかったが、可能性は高いと言わざるを得ない。
受け止める準備はできているつもりだったし、むしろこの日を待ち望んでいたはずだったが、実際に目前に迫ったことを実感すると気分がとても重くなった。
小さなサンドイッチを時間をかけてようやく口の中に押し込んだ。そして誕生日にこんなみじめなランチを取っている自分の運命を呪った。

落合社長との約束の時刻にオフィスに戻ると、誰も自分が戻ってくることを予期していなかったので、少し驚いたような顔をして迎えられた。小笠原や中田の反応も同様だ。ただしその反応が小さいものだったことから、呼び出されたのは自分ひとりであることを悟った。

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退職勧告 -23-

オフィスを出て下りのエレベータを待っていると、なんと先ほどの秘書が小走りに自分を追いかけてきた。
「チャンゴさん、落合社長に伝えたんですけど、どうしても今日お話がしたいとのことです。予定をキャンセルして戻って来るようにと言っていますが」
秘書も無理を言っていることが分かっているのだろう。先ほどよりさらに困った顔をしていた。
自分としてもそこまで言われたらどうしようもなかった。戻るべき時刻を確認し、あらためてオフィスを出た。

展示会場に向かいながら、人事部長の江藤のことを考えていた。最近では情報漏れの主犯格であることを落合社長から疑われ、あまり情報が入ってこない江藤だったが、まさか退職勧告をする当日に人事部長が何も聞かされていないとは考えにくかった。
今日、江藤は会社を休んでいる。そこで電話をかけてみることにした。

電話にでた江藤に、落合社長から強引に呼ばれたことを伝えて何か知らないか尋ねた。
江藤もその面談の内容を測りかねているようだった。今日勧告をするのなら、それについての書面が必要なはずだが、11月の時に作成して落合に渡したものの、延期後はまだ日付を変更していないらしい。一方で、今までも無理なことを強引に行なってきた落合だけに、書類を後回しにしてとりあえず口頭で勧告する方法をとる可能性も否定できなかった。

「とにかく何を言われても、少し考えさせてほしいと言うんだ。あと、僕もちょっと心配だから、終わったら必ず電話をください」
江藤に2つのことを約束させられて電話を切った。

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