チャンゴのひとりごと

一言メッセージ :ご訪問ありがとうございます。普段の生活で起こったことや感じたことの記録です。

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退職勧告 -22-

退職勧告が実行されるかもしれない日の朝を迎えた。今日は偶然にも自分の誕生日である。
この勧告を人生の再出発だと考えれば最高のタイミングだと思えるし、屈辱だと考えれば最悪の日になってしまう。複雑な思いで迎える誕生日だ。
しかし今日が予定日だと聞いたのは数週間前で、それ以降は何の情報も動きもなかった。本当に勧告が実行されるのかどうか、まだわからない。
自分の気持ちの多くを占めていたのは、そんな情報不足から来る不安だった。

今日の予定は午前中の社内会議に出席後、午後いっぱいは展示会のブース番である。したがって自席で仕事をする時間はきわめて短かった。
会議が終了し、外出の準備をしながら、今日は何もおこらないかと思い始めたとき、社長秘書が歩み寄ってきた。
「チャンゴさん、落合社長が、話があるので夕方社長室に来てほしいそうです」
ドキッとしたが、できるだけ冷静に返答した。
「申し訳ないが無理だよ。今日はこれから外出で、夜まで戻って来られないんだ。明日にしてもらって」
そう答えると、秘書は困ったような顔をしながらも仕方なく席に戻り、昼食に出ているという落合社長に連絡していた。

おそらく退職勧告に関連することだろう。勧告を受けるのは歓迎だったが、少なくとも今日ではないと確信し、ほっとした矢先だっただけに動揺した。今となってはせめて明日に延ばしたかった。
さらに、意図的ではないといえ落合社長の予定を一日狂わせるのも、自分にとってのささやかな抵抗だった。

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退職勧告 -21-

落合社長は当然、川上課長を慰留した。だが、川上も用意周到に他社の内定を獲得していたため簡単には引かない。結局その日は結論が出なかった。
かといってそのまま時間が過ぎ去っていくのを黙って待つ川上ではない。周囲の心配をよそに、着々と退職準備を進めていった。

このころ、会社の中での情報漏れを落合社長が気にするようになっていた。営業部長の着任とそれが中止になった話は公には管理職にしか知らされていない情報だったが、今やほぼ全社員が知っていた。
数名の社員が社長室に呼ばれて落合社長から尋問まがいのことをされ、不機嫌な顔をして出てきた。誰から聞いたのか、何を知っているのか、というようなことを問われているらしい。まるで犯人探しである。
そして人事部長の江藤をはじめ他の管理職にも、人事関連の情報がほとんど入ってこなくなった。

12月になったが退職勧告についての追加情報はほとんど得られないままだった。江藤から聞いていた予定日は一週間後に迫っているが、具体的な進展は見られない。江藤も何も聞かされていないという。
本当に予定どおり実行されるのか? それは何日なのか? 川上課長の辞表の扱いはどうなったのか?
これまでと違い、気心の知れた幹部の誰に聞いてもわからないままだった。
唯一聞こえてきたのは、新しい営業部長が決まり、今度は落合社長自らが昔の知り合いを連れてくるらしいという噂だった。

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退職勧告 -20-

川上課長の言葉は本当だった。
ともに外出してからほんの数日後、その「爆弾」は落とされた。

その日の朝、川上がまず行ったのは人事部長の江藤の席だった。そこでしばらく話し込んだ後で、落合社長の部屋に入っていった。この時点で川上が動き出したことは感じていた。
落合社長の部屋のドアが閉じられている間、まず江藤が、数分後に川上と同部署の安子が、自分の席に歩み寄って同じことを囁いた。
「川上さん、辞表出したよ」
ここまで来ると、何が起こっても驚くことはなかった。この川上の行動についても想定内。
問題は、この爆弾を落合社長がどう処理するかである。

川上の行動の露骨さと、自分の席に次々に人が立ち寄っては小声で何かを話しているのをみて、さすがに周囲もおかしな空気を感じたらしい。今度は中田が自分のところへ来た。
「もしかして、川上さん辞めるんですか?」
どう返答すべきか迷ったが、他言を禁じた上でそうらしいことを認めた。

「理由を知っています?」
もちろん、君を救うためだよとは口が避けても言えない。
「さあ?」
とぼけるしかなかった。
川上の辞表が自分の近い将来の人生を左右する状況であることがわかっている今、中田の好奇心に付き合っている余裕はなかった。

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退職勧告 -19-

退職勧告までのカウントダウンは、一度巻き戻されたものの再び前に進みだした。

残り約2週間になったころ川上課長と外出する機会が訪れた。
この退職勧告騒動の中では、立場は違えどお互いに傷つき苦しい思いをした。そしてお互いが何を求め、どのように動いているかを知っていながら直接話す機会はなかった。しかしこのあたりで直接話してみるのも良いかと思い、自分の方から客先への同行を求めたのだった。

「落合社長に直談判したんですってね」
行きの電車の中でさっそく話を振ってみた。
「そういえば、チャンゴさんはすべて知っているんでしたね」
川上はいつものように静かに話し始めた。
「僕はどうしても落合社長の考え方が正しいと思えないんですよ。でも力不足で結局何もできなかった。一度延期になったのだって要は営業部長が来なくなったからで、僕が言ったからではない。でもここで引き下がりませんよ。チャンゴさんはこの勧告を利用して辞めたいんですってね。チャンゴさんは大丈夫、きっと他にいくらでも活躍の場がありますよ。でも小笠原くんと中田くんはたぶん違う。だから何とか2人を救いたい。勧告が実行される前に、必ず爆弾を落とします。それでチャンゴさんにまで迷惑がかかってしまったらごめんなさい」
顔に微笑みを浮かべ穏やかに話していたが、目は笑っていなかった。落合社長への怒りと、自ら行動することへの固い決意が感じられ、圧倒された。

そして「爆弾」の意味するところを想像しながら、できるだけ冷静に返答した。
「そんなこと気にしないでください。川上さんが正しいと思うことをした結果であれば、自分はそれを受け入れるし、先のことはまたそこで考えますから」
本心だった。
自分が期待していることは所詮他力本願で、他人の下す決定が自分に好都合であることを祈っているだけである。川上のように自分の信念に基づいて部下を救おうとしている姿を見せられると、恥ずかしさを覚えた。

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退職勧告 -18-

残念そうな江藤とは対照的に、自分はほっとしていた。
前回の勧告予告を聞き、自分の中で整理をつけた時点で現職に対する思い入れはすでに消え、このあたりで人生のリセットボタンを押したかった。
しかし会社都合退職の好条件を聞いてしまうと、自分から辞表を提出するのはいかにも馬鹿らしい。しかもそんなことをしたら、落合社長の思うつぼである。葛藤する気持ちのバランスを何とか取りながら次のチャンスを待っていたが、意外に早く訪れることになりそうである。

「わかりました。江藤さん、今回は邪魔しないでくださいね」
最近の自分は、勧告の情報を共有できる人に接するときは、もう辞めたいという気持ちを正直に出すようにしていた。
「そうだね。チャンゴさんを見ていると本当に辛そうだもんね。たしかにそろそろ解放してあげた方が良いのかもしれない。できれば僕も退職手当もらって辞めたいよ。もう疲れた」
一連の騒ぎの中で両者の間に立って神経をすり減らしてきた江藤だけに、さすがに疲れたようだった。

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