チャンゴのひとりごと

一言メッセージ :ご訪問ありがとうございます。普段の生活で起こったことや感じたことの記録です。

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退職勧告 -17-

退職勧告の延期が決まってから一週間。どうにも心の整理がつかないままに、投げ出すつもりだった仕事を仕方なく続けていた。
予定通りならすでに勧告を受けて休暇に入っているか、少なくとも後片付けや挨拶回りをこなしているはずの時期である。今ごろまさか契約を追いかけて顧客に連絡したり、チームのメンバーに指示を出したりしているとは思わなかった。
ただ心の奥底では、きっともう一度ある、という予感というか、期待感のようなものは持ち続けていた。

社内では幹部が会議室に長時間入っていることが増えてきた。決算を間近に控え、今年の業績の整理と同時に、来年の体制作りについても多くの時間が割かれていることは予想できた。また会議室に向かう途中の役員たちの話し声が漏れ聞こえてくる中で、新しい営業部長候補の選定が進んでいる様子も感じられた。

そのような状況の中、所用があり江藤の席へ行った。もしかしたら来年の体制に関する情報が得られるかもしれないという期待もあった。
用が済んだ後、ついに待っていた言葉が江藤の口から発せられた。
「やっぱり、12月にやるって」

もちろん退職勧告のことである。

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退職勧告 -16-

嫌な予感は的中した。

さらにその翌日、江藤からのメールで退職勧告が一旦延期になったことを知らされた。
川上の強い言葉に加え、営業部長着任の話も白紙に戻った今、営業スタッフまで辞めさせるのは現実的ではないという意見が社内の大勢を占め、どうしてもわれわれを辞職させたい落合社長もさすがに今回は譲歩したようだった。

メールを読みながら、体の力が一気に抜けていくのがわかった。
あとたった2日。それですべての面倒から解放されることを想定して手を抜いていた仕事が、またすべて自分に降りかかってくるかと思うと、のしかかる重みはかなりのものだった。
ショックの大きさは、最初に江藤から退職勧告の計画を打ち明けられたとき以上だろうか。

呆然としながらこっそりと江藤の座席まで行きメールのお礼を言うと、江藤は勝ち誇ったような顔で言った。
「次はこの延期を何とか中止に持ち込みたいんだよね。チャンゴさんもがんばろうよ」
「江藤さん、勘弁してくださいよ。こっちは早く辞めたいんだから」
作り笑いをしながら何とか答え、それ以上の情報があれば聞き出そうとしたが現時点では特に無さそうだった。

今回もまた、表面上は何事もなかったように仕事に戻った。しかし、残り勤務日数のカウントダウンを心の中でリセットするという作業は、並大抵のことではなかった。これからどうすれば良いのか。

各方面から情報を集めてみると、延期の最大の理由は営業部長着任が中止になったことで、落合社長自身はまだ退職勧告を実行したい気持ちを持っているらしいことがわかった。とすれば、新しい営業部長が決まればこの話が再燃する可能性はまだある。賭けるとすればそこか。

皮肉な話だが、あれほど考え方が合わない落合と自分だけが同じゴールを求めているようである。

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退職勧告 -15-

いよいよ退職勧告が実行される予定の週が始まった。
今週だけ我慢すればこの会社ともお別れ、来週からは悠々自適の休暇生活に入るはずだ。しかし先週の荒木の言葉も気になり、すんなり行かない可能性も否定できなかった。
先行きのまったく見えない一週間のスタートでもあった。

夜、安子と帰りが一緒になり、自然と飲みに行くことになった。
安子は相変わらずあきらめておらず、この話を知っている数名の仲間と水面下で色々と作戦をたてているようだった。さらに、安子も川上が何らかの行動を起こす予定であることを聞いていて、何か相乗効果が生まれる方法がないか考えていた。
だが彼女は川上とは違ってこの話を公に聞かされたわけではない。行動に移るとしても勧告後である。そこにいらだちがあるようだった。

翌日、江藤からメールが来た。川上から江藤に送られたメールの転送である。
ついに川上が行動に出たらしい。
昨夜、安子と自分がバーで飲んでいるころ、落合社長と川上が営業スタッフの採用面接をしていたことは知っていた。その後で川上が落合にミーティングを要求したのだ。

メールによると川上は、小笠原、中田の2名の勧告を少し待ってほしい、その間川上自身に預けてくれれば必ず再教育するという話をした。そして、彼ら2名はもともと川上の部下だったので、2人だけを辞めさせて自分が残るのは難しいと伝えたそうだ。
川上は自分がこの勧告を利用して退職したいと願っているのを人づてに聞いたのだろう。あえて自分には触れずに小笠原と中田の救済を申し出たようだった。
落合社長からもとりあえず少し考えるとの返答を引き出したらしい。

徐々に雲行きがあやしくなってきた。

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退職勧告 -14-

荒木の言葉の本気度を測りながら今後起こりそうな事態にあれこれと想像をめぐらせていると、荒木がさらに続けた。
「そういえば川上課長ともこの話をしたんだけど、絶対に許せないから勧告が実行される前に行動を起こすって言っていたよ」

やっぱりか、と思った。
川上は落合社長の信頼も厚く、来年は営業課長に戻って新任の営業部長のサポート役を期待されている人物だった。しかし川上自身は落合社長を信頼しておらず、また正義感の強い人物だけに元の部下であるわれわれが退職勧告を受けるのを黙って見ていられないだろうということは容易に想像できた。
そして、何よりも脅威なのは彼の実行力である。行動を起こすとまで言っているのだったら、必ず何かをやるに違いない。あとはその方法と落合社長の決断に与える影響の大きさが問題だ。

実はこの直前に、新任の営業部長着任の話が流れたという情報も入ってきていた。だとすればなおさら川上の存在感は大きく、落合社長も川上の言うことには耳を貸すのではないかと思える。
話がこじれた場合、あと数日仕事して悠々と休暇に入るという自分の計画に影響が出るのは必至だった。

「いろいろ嬉しい言葉をかけていただいてありがとうございました。どうか、行動を起こすにしても起こさないにしても、私たちではなくご自分のことを第一に考えてください」
本人のためであると同時に自分のためでもあるような言葉をかけて、荒木と別れた。

一人になると、最近ようやく取り戻した平穏な気持ちが再び揺らぎ、胸騒ぎがするのを止められなかった。心配してもらえる嬉しさと、勧告を利用してこのまま静かに会社を去りたいという両方の気持ちが、自分の中に確かに存在していた。

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退職勧告 -13-

「ある意味で、来週出張でラッキーだったのかな」
席に着くと、荒木は当然のように勧告の件を話題にしてきた。
「そうですね。受けとめる準備はできているとはいえ、見苦しいところを見せてしまわないとも限らないですから」
「でも、退職勧告なんて絶対おかしいよ。社長だったらその前に、責任の取り方があるはずなのに、自分自身は何の痛みも取らず部下だけ切り捨てるなんて。所詮、器じゃないんだよ」
以前から、一緒に外出したときなどに落合社長批判はよく聞かされていた。だが、今日のそれは少し勢いが強かった。
「ただね、われわれ雇われ人にできる会社を変える唯一の方法は、会社を辞めることだけだと僕は思っている。何だったら皆で辞めちゃうっていうのもひとつの手だよね」
利口な荒木のことだから情に流されて無謀なことをしたりしないだろうが、ここまで言われるとまた心が動揺し始めた。

この勧告の件は、今日までの間に管理職に対しては全員に伝えられていたらしい。それに対して、誰もがいらだち、自分たちの味方であることは素直に嬉しかった。
その一方で最近の自分は、頭の中で退職後のプランを考える時間がもっとも楽しいと思えるほどに消化できていた。もしこの話が無くなってしまうようなことがあるとしたら、それはもはや自分個人の望みではなかった。しかし、実際に勧告された後で多くの社員が共闘体制に入ってしまえば、自分ひとりが退職手当をもらってサヨナラというわけにはいかないだろう。
ようやくの思いで受け止めた退職勧告なのに、自分を味方してくれる人たちのおかげで立ち消えになってしまうとしたら、皮肉な話である。

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