チャンゴのひとりごと

一言メッセージ :ご訪問ありがとうございます。普段の生活で起こったことや感じたことの記録です。

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退職勧告 -12-

次の週は幹部数名が海外出張に出かけ、退職勧告の件は何の進展もないままに過ぎた。
幹部の少ないオフィスは自然と雰囲気もやわらかく、社員のほとんどがリラックスして仕事をしている。自分もだいぶ落ち着きを取り戻して、表面的には業務を粛々と進めた。ただし、もうどうでも良いと気持ちから、顧客折衝やスタッフとのミーティングはあっさり済ませた。

さらに時がたち、社内にいつもの日常が戻ったころ、帰国した江藤からのメールによって、とうとう勧告が出される日が決まったことを知った。

その日、今度は技術部の荒木部長から夕食に誘われた。勧告の当日に海外出張で不在にすることから、落合社長に呼ばれて計画を打ち明けられたらしい。一方で江藤とも繋がっていて、自分が退職勧告のことをすでに知っていることも聞いたようだった。

「荒木さんと会社で会うのも、今日が最後かも知れませんね」
退職勧告を受けるのが荒木の帰国前日ということを考えると、おそらく会うことになるのはわかっていたが、冗談まじりにそんな話をしながらオフィス近くの中華料理店へ入った。

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退職勧告 -11-

へとへとになりながらまったく効率が上がらなかった一日を終えると、今夜は安子から飲みに誘われた。昨日の話が耳に入ったのだろうか。
安子は持ち前の明るい性格で社内の誰からも姉御的に慕われている存在だ。自分ももっとも信頼している同僚の一人だから、誘われれば断る理由はない。

帰りのエレベータで他の社員と乗り合わせた。普段であれば飲み仲間である彼は、いかにもこれから飲みにいきそうな2人を見て誘われるのを期待していたようだったが、安子はあっさりと彼に別れを告げた。自分も心苦しかったが、一緒に行こうとは言わなかった。

オフィス近くのバーに入り、しばらく他愛のない話をした後、安子が本題を持ち出した。
「ちょっとぉ、江藤さんから聞いたんだけどさ。なんかおかしなことになってるみたいじゃない」
「あ、そう。やっぱり江藤さん、安子さんにも話したんだ」
「で、どうすんのよ?」
「どうもこうも会社が辞めろっていうんだから、辞めるしかないだろ」
「私、話を聞いて気持ち悪くなっちゃったわよ。中村課長とも少し話し合ったんだけど、とにかく納得しちゃだめよ。戦わないと。まあ戦うのはあんたというよりも私達だけど」

今日はとても辛い一日だった。かといってそれを表情や仕草にだすわけにいかない。まして他人に聞いてもらうことなど論外で、とてつもない孤独感を感じていただけに、安子がすぐに声をかけてくれたことで少し救われた思いがした。

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退職勧告 -10-

翌日はほとんど仕事にならなかった。

昨日江藤から聞いた話は誰にも言えない。
落合や川田が自分を会社の外に追いやろうとしているのを知りながら、それをおくびにも出さずに接するのは至難の業で、何とかポーカーフェイスだけ保ちながら接触を避けた。トイレに立つときでさえ2人の動きを観察し、かち合わないようタイミングをはかっていた。

一方、数週間のうちに同じ立場になる小笠原と田中はといえば、あいかわらずの能天気ぶりで危機感のかけらも感じられない。この2人が社会の厳しさを実感するには、こういうショック療法もありかな、とも考えてしまう。

江藤から、落合社長と江藤が勧告準備のためにやり取りしたメールが転送されてきた。
退職勧告あるいは解雇するために必要な条件など法的な情報が記されており、江藤は落合社長を教育しようとしているのだが、当の落合は、そんな大げさに考える必要は無い、もめるわけがないのだから、とまともに取り合っていない。
落合社長が退職勧告を簡単に考えていて、慎重に進めようとする江藤を批判し、それにあきれた江藤が自分に情報を横流しする、ということの繰り返しである。

間違いなく情報はあった方が良い。だが内容は、自分を葬り去るための戦略である。
江藤からのメールを読み進めるごとに、グサッと何かが心に突き刺さるような思いがした。それでも自分を守るためには情報武装をしなければならない。
江藤に感謝しつつ、周囲に誰もいないのを確認しながら何とか最後まで読んだ。

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退職勧告 -9-

江藤の想いと異なり、自分の質問は退職の条件に集中した。
これまでの転職でも就職先を決めずに辞職し、ニート生活を満喫してから再就職していた自分なので、無職になることの不安はあまり無かった。仮に在籍期間に次の就職先が決まらなくても、失業保険が7日間の待機期間後すぐに支給されることも知っていた。
退職勧告の全容が見えたときには、会社と争うとか居座るという行為でプライドを守るより、もらうものをもらって逃げた方が得だという結論に達していた。

「江藤さん、どう考えても辞めた方が得じゃないですか? 最初は驚いたけど、だんだんこの先が楽しみになってきましたよ」
まだわだかまりもあったが、作り笑いで余裕の表情を演じて言った。

「そうかあ。たしかにそうだよね。僕も自分で説明していて、その方がチャンゴさんにとっては幸せかもって思えてきた。わかった。でも落合社長から説明を受けるときは、たとえ演技でも机のひとつも叩いて怒らなきゃだめだよ」
しぶしぶではあったが江藤も自分の気持ちを了承し、勧告を少しでも良い条件にできるよう協力すると言ってくれた。

結論は出たが、その後も料理にはあまり手が伸びなかった。
思いがけず多少のお金と自由時間は得られそうだが、どんなにチャンスだと思い込もうとしても、生まれてはじめて「クビ宣告」される事実は心の奥にトゲのように刺さり、簡単には取れそうもなかった。

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退職勧告 -8-

自分だって今回の不当な扱いに対する怒りは少なからずある。
しかし退職勧告を受けてまで居座ることが、本当に自分のためなのか。敵へのプレッシャーにはなるが、自分の苦しみも大きいのではないか。
その一方で、先に江藤が言った「退職手当を積んで」の部分が気になり、まずは話をそちらへ移した。

「退職手当の話ですが、いくらいただけるんですか?」
「まず退職金が自己都合退職の2倍、これは就業規則にも明記してある。プラス3-4か月分の給料を退職手当として加えるのが一般的だね。あとは有休が残っていればその間は在籍扱いになる」
自分が手にするだろう金額をざっと計算してみた。
はっきり言って悪くない。勧告後、2か月程度勤務しないまま在籍し、その後で年俸の半分が入ってくることになる。

「悪くないじゃないですか。ところで、退職勧告を受けたら普通は、翌日から出勤の必要はないし、引き継ぎもほとんどしないって聞いたことがあるけど、それで良いんですか?」
「まあ、そうだね。本来、会社はそこまで考えて退職勧告を出すべきだから。もちろんウチの会社のことだから大混乱するだろうけど、チャンゴさんがそれを心配ことないと思う」

決まった! と思った。たしかにここで辞めたら、社会的に見てクビである。自分の仕事ぶりにダメ出しをされた屈辱感や体裁の悪さも残る。
だが意地をはってみたところで、いずれ近いうちに辞めようと思っていた会社である。仮に残ったとして来年もまた落合社長から理不尽なプレッシャーをかけられながら仕事をすることを考えると、それもうんざりしてくる。ならば良い条件でさっさと身を引き、少し気分転換した後で就職活動に専念した方が良いではないかと思えてきた。

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