チャンゴのひとりごと

歯車が狂い始めたのを実感したのは昨日からだった。

外出先から直帰する前に、最後のメールチェックをしたときのことだ。江藤から落合社長に向けて厳しい調子のメールが送られている。宛先に自分の名前は入っていないからBCCで送信されたらしい。
内容は、チャンゴがいかに営業部のために貢献しているか、それなのになぜ外すのか、ということが書き綴られ、最後に懇願するように、あまり無茶なことばかり言わないでほしい、と締めくくられていた。
何の騒ぎだろうとおそるおそる下へスクロールしていくと、落合社長から江藤へ送ったメールの返信であることがわかった。
落合社長からの最初のメールには、今後の営業スタッフ面接は落合自身と川上課長の2名で行う、と一方的に書かれてあった。

現在進めている営業スタッフの採用面接は、チャンゴと元営業課長で今は別部署に異動している川上課長で一次を担当し、二次で落合社長と江藤が最終判断を下すという方法だったが、今後、落合と川上の2人で1回だけの面接を行なって決めるということらしい。
つまりチャンゴと江藤が外されたのだが、江藤のメールはその決定に対する抗議だったのだ。

「こんな話をするとメシがまずくなっちゃうかもしれないけど･･･」
10月のある夜、指定されたオフィス近くのイタリアンレストランで向きあい、ワインと料理が運ばれてくると人事部長の江藤は切り出した。
「今日、落合社長と川田取締役に呼ばれてね、営業の4名に退職勧告を出すから準備しておくように、と言われたんだ。その4名というのは、北野さん、小笠原くん、中田くん、それからチャンゴさんだって」
一瞬、愕然とした。最近の自分は、落合社長から半ば無視され直接話しかけられることも減っていたから、少なくとも気に入られてはいないだろうとは感じていた。しかし、まさかいきなり退職勧告を受けるような立場に置かれるとは。

「僕はずいぶん反対したんだ。今年は営業部長が2回も代わって、しかも最初の橋本部長が辞めてから岩瀬部長が入ってくるまでの2か月と、岩瀬部長がすぐに解雇されてから今日までの2か月の混乱期に営業部をリードしてくれたのは、チャンゴさんなんだから」
江藤が続けざまに話してくれたおかげで、第一声を聞いた直後の動揺はなんとか抑えられ、少なくとも冷静を装う余裕は取り戻した。

「そうですか。理由はなんですか? まあ、聞かなくても見当はつきますが」
確かに理由なんかどうでも良かった。ただ心の奥底にある動揺を表情に出したくない一心で、思いつきの質問をしてみた。
「12月に新しい営業部長が来ることが決まったんだ。並行して今、営業スタッフの採用も進めているでしょう。要は来年に向けて人心一新して、根本から体質改善すべきだっていう言い分なんだよ」
これまでも何かあるたびに落合社長からの批判の矛先は営業部に向いていたから、おおかた予想どおりの答えだった。