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発信箱:混浴を守ろう=磯崎由美(生活報道センター)

 アユが遊ぶ清流の岸に木造の小屋が見えてきた。静岡県松崎町の「大沢荘山の家」は温泉ファンに人気の露天風呂という。期待が高まる。

 足元からボコボコとわく熱めの湯。崖(がけ)から降り注ぐ木漏れ日。秘湯の条件はそろっているのに、開放感が乏しい。男湯との間にある高い間仕切りのせいだ。「混浴だったころは広くて気持ち良かったんだがねえ」。畳の休憩室で、常連のおじいさんが残念そうに缶ビールをすすった。

 男女別になったのは4年前に日帰り入浴の許可を申請したためだ。静岡県は風紀上、公衆浴場での10歳以上の混浴を条例で禁じている。宿泊客だけ利用する風呂なら混浴でもいいが、日帰り客も受け入れると、公衆浴場と同じ規制がかかることになる。

 温泉地から混浴が消えていく。互いをじろじろ見たり見せたりしないマナーを守れない客が増えたのが原因だ。300年以上の歴史を持つ青森県の酸ケ湯(すかゆ)温泉でも苦情が相次ぎ、一時ついたてを設けた。すると今度は「狭苦しい」との声が増え、結局元に戻すことに。昨年は常連客が「混浴を守る会」を結成、利用者に礼節を守ろうと呼びかけている。会員は9000人を超えた。

 「混浴宣言」の著者で温泉ライターの八岩(やついわ)まどかさん(52)は混浴の魅力を「性別も何もかも取り払い、誰もが受け入れられる居心地の良さ」と語る。足腰が弱ったお年寄りも妻や娘に手を取られ、湯の効能にあやかれる。

 ぎすぎすとした時代にこそ、ひとときでも素の姿になって体と心を解きほぐしたい。日常に戻ればまた、間仕切りだらけなのだから。

毎日新聞 2008年9月3日 1時07分

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