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【社説】

福田退陣自民総裁選びへ 野党に委ね出直しが筋

2008年9月3日

 首相退陣表明を受け自民党の後継総裁選びが活発化した。「表紙」を変え局面打開をもくろむ。その前に自問すべきだ。政権担当の資格はあるのか、と。

 国民をあぜんとさせた福田康夫首相の政権投げ出し会見から一夜明けた二日、自民党内で違和感のある光景が繰り広げられた。

 「福田・麻生政権」の実質ナンバー2である麻生太郎幹事長が笑顔で会見に臨み、総裁選出馬への意欲を真っ先に表明した。

 日程は「十日告示、二十二日投開票」に決定。小池百合子元防衛相らを擁立する動きも出るなど総裁選モード全開だ。退陣表明はもはや「過去」の出来事のようだ。

 選んだ責任にけじめを

 一年前の安倍晋三前首相の退陣も唐突だった。このときも幹事長の麻生氏が手を挙げたが、ほとんどの派閥が雪崩を打って福田氏を支援した。政策を吟味することなくポストばかりに関心を持って。

 総主流派は時に総「無責任」体制となる。

 首相は衆参ねじれ国会打開へ民主党との大連立を仕掛け、頓挫した。以来、インド洋での給油継続やガソリン税の暫定税率問題などで立ち往生を余儀なくされた。だが、多くの所属議員はそれこそ首相お得意の「人ごと」のように事態を静観していたのが実情だ。

 最近では低支持率のままでは総選挙を戦えないと「貧乏神」扱いする向きもあった。総選挙へ「顔」が変わることに安堵(あんど)する議員も少なくないらしい。

 そんな人たちに聞きたい。二代続けていいかげんな政権をつくってしまったことの責任をどう考えるのか、と。景気が後退局面に入り、世界情勢は緊迫の度を深める。一刻の猶予もならないときに政治のみじめな迷走が続く。対外的信用の失墜も必至だ。

 けじめや反省はあるのか。「ポスト福田」争いに党をあげて熱中する姿からは感じ取れない。

 自公関係を見直すとき

 首相に引導を渡したのは、連立のパートナーである公明党かもしれない。

 自公体制は一九九九年の自自公連立政権以来、九年近くに及ぶ。与党内での福祉政策実現を重視する公明。参院での安定勢力と同党の支持母体である創価学会の選挙支援を期待する自民。双方の目的にかなった連立だった。

 公明にとっては、自衛隊の海外派遣をのんだ苦渋の時も。かつては自民の「げたの雪」とまでいわれた。一方、自民は公明頼みの選挙戦に慣れるにつれ、支持基盤が弱体化。やがて公明抜きでは戦えないような状況まで追い込まれていた。

 近づく衆院選と来夏の東京都議選勝利に向けて公明の主張は単純明快だった。給油継続法案の衆院再可決は選挙に不利に働くと難色を示し、中・低所得者向けにバラマキ型の定額減税を押し切った。

 いずれも首相の意向に逆らったものだ。同党の「福田離れ」が「背水の陣」にあった首相を追い込んだともいえる。野党からは「公明政局」との声も飛ぶ。

 自民は首相退陣を機に、立ち止まって連立関係を見直すべきではないか。安全保障と経済財政という基本的な政策でこれだけ亀裂が走った意味合いは重い。政権の根幹が揺らぎ、行き詰まっている。安易な連立維持はさらなる迷走を招きかねない。

 その自民内でも、経済政策の路線対立は一筋縄でいかないところまで来ている。

 二〇一一年度の基礎的財政収支の黒字化目標、財政規律を重んじる小泉構造改革路線の堅持を主張する中川秀直元幹事長らと、積極的な財政出動へ目標先送りも視野に入れる麻生氏らがいる。

 経済成長重視の上げ潮路線と消費税の増税路線もある。一連の路線対立はもはや政界再編でしか決着しないとの声も聞こえる。

 本気で総裁選を争うなら、それもいい。だが設定された総裁選日程は民主党代表選を多分に意識したものである。

 まともな論戦なしに有権者の歓心を買うショーになるとしたら、ひたすら政権にしがみつくことだけを目的にした背信行為、と内外に受け取られることを覚悟してもらいたい。

 茶番劇で国民を欺くな

 二代続けての政権投げ出しは、世襲議員の増加による指導者にふさわしい人材の枯渇をはじめ自民の政権担当能力の限界などを露呈した。後継総裁が首相の座に就けば、総選挙を経ない三代連続の政権誕生である。

 本来なら潔く下野して野党に政権を委ねるのが筋である。このままたとえ政権を続けるにしても、薄れた国民の信頼を取り戻すことは極めて難しい。

 総裁選を華々しく演出するだけの茶番劇で、有権者の目をごまかすことはできない。

 

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