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社説:値上げの秋 消費者は鋭い眼力で臨め

 9月に入っても生活関連物資の値上げが止まらない。その範囲もトヨタ自動車のプリウス、サントリーのビール・ウイスキー、花王などの衣料用洗剤など幅広い。10月には輸入小麦の政府売り渡し価格も10%上がる。

 こうした原油、食糧などや1次産品の市況高騰による消費財の価格上昇は今年春以降、目立ってきた。将来を展望しても、市況が大きく下落する可能性は低い。そこで、政府も新価格体系への移行が必要と判断している。

 7月の全国消費者物価は生鮮食品を除く総合指数で前年同月比2・4%上昇と、消費税率引き上げという特殊要因のあった97年度を除けば16年ぶりの高さとなった。8月以降も2%台で推移する公算が大きい。

 国内で消費する資源や食糧の多くを海外に依存する日本では、これまでも市況の高騰に翻弄(ほんろう)されてきた。

 70年代の2度の石油危機が典型だ。原油価格の高騰を短期間に克服したのは、企業が省エネや省資源に努めたことや、生産性が高まったことが大きかった。値上げによる販売数量減少を恐れ、仕入れ価格上昇分の販売価格への転嫁を圧縮することも広く行われた。

 今回はどうか。昨年段階までは、販売価格を極力据え置く動きが強かった。それも限界に達し、年明け以降、多くの業種に値上げの動きが広がった。これまでも、下請けや中小企業では原材料価格が上がっても、製品価格の引き上げどころか、値下げを求められることが少なくなかった。

 その意味では、便乗値上げや原材料市況上昇を上回る値上げには目を光らせつつも、適正水準の価格転嫁は受け入れる必要がある。

 同時に、企業には資源価格が緩んだ場合や、為替相場が円高になった場合には、それを反映させ販売価格引き下げを実施するなどの対応が求められる。その点からも、ガソリン価格の引き下げは当然のことだ。

 日本ではこのところ、消費が低迷している。生活関連物資の値上がりで家計が生活防衛に動いていることや、賃金が伸びていないことが主要因である。

 個人消費は上にも下にも大きくぶれず、安定的に推移していくことが望ましい。福田康夫政権は消費者庁の創設など消費者政策強化を打ち出してきた。物価対策もその重要な柱である。次期政権もそのことを忘れてはならない。

 国民は春以降の値上げ続きで、ものの値段に敏感になった。いまの日本は過剰消費といっていい状況だが、物価上昇はそれを見直す機会にもなっている。ガソリン価格上昇でマイカーから公共交通へという流れが表れていることは象徴的だ。

 消費は、量もさることながら、質や内容にこだわる段階にきている。そこでは、消費者の物価に対する鋭い眼力がものを言う。

毎日新聞 2008年9月3日 東京朝刊

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