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社説

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自民党総裁選―「選挙の顔」より政策で

 福田首相の突然の退陣表明を受け、自民党総裁選の日程が10日告示、22日投開票と決まった。24日にも新首相が誕生することになる。

 麻生太郎幹事長がいちはやく出馬の意思を表明した。麻生氏の対抗馬にだれが名乗りをあげるのかが焦点だ。

 1年のうちに2人の首相が続けて政権を放り出したことに、有権者の多くはあきれ果てている。自民党からすれば、複数の候補者によるにぎやかな政策論争で雰囲気を変え、出直したいところだろう。

 あと1年で衆院議員の任期は切れる。望むと望まざるとにかかわらず、新首相の手で衆院の解散・総選挙が行われることになろう。政治の行き詰まりを思えば、一日も早い総選挙で政治の空白に終止符をうたねばならない。

 そのために、総裁選に臨む自民党に注文しておきたいことがある。

 麻生氏ら候補者は、国民が聞きたいと思う政策についてそれぞれ率直に、具体的に語る。そして、勝者の主張をそのまま総選挙の党マニフェストの骨格にする。そんな緊張感のある論戦にすることだ。

 たとえば経済政策。麻生氏は最近、基礎的財政収支を黒字化する財政再建目標の先送りや、新規国債の発行は年間30兆円以内という歯止めにこだわらない姿勢を見せている。

 では、新政権になったらどれぐらいの規模の景気対策を出すのか。将来世代へのツケ回しはどこまで膨らみ、財政再建の帳尻はどう合わせるのか。

 中川秀直元幹事長、小池百合子元防衛相ら「上げ潮派」の議員たちの考えは違う。財政再建を重視する議員たちの主張もぶつけてもらいたい。

 年金制度について、麻生氏は消費税を10%に引き上げて基礎年金を全額税負担に改めることを提唱した。だが、党内には現行の保険料方式を維持しつつ、手直しを考えるべきだという意見も根強い。

 消費税は上げるのか、上げないのか。福田首相が約束した道路特定財源の一般財源化は、実現するのか。

 「豊かで活力ある社会」といった抽象的なキャッチフレーズだけでお茶を濁されては困る。いわんや派閥の数合わせで次期総裁が決まるようなことでは、2週間近くもの選挙運動期間をとる意味はまったくない。

 総選挙をにらんで、有権者受けのいい「選挙の顔」を望む声もありそうだ。だが、不景気や社会保障の劣化に直面する有権者の不安を過小評価してはいけない。政策を語らずして信頼は得られないことを肝に銘じるべきだ。

 その意味で、民主党の代表選が無投票になりそうなのは残念なことだ。自民党総裁選に埋没しないためにも、小沢代表にはマニフェストづくりを通じた活発な党内論議を求めたい。

大分教育汚職―採用取り消しで幕引き?

 2学期が始まっても、大分県の小中学校ではピリピリした空気が漂っている。今春から教壇に立っている新人教員のうち、不正に合格した21人が採用を取り消されることになったからだ。

 贈賄罪で起訴された元小学校長の長男で、すでに辞職した教員を除く20人は、自主的に退職しなければ、今月5日をめどに採用が取り消される。その場合でも、本人が希望すれば、臨時講師として雇われる。それまで教えていた先生が一斉に教室から姿を消した場合の混乱を考えてのことだろう。

 教員の採用と昇任にからむ汚職事件は子どもたちの心に深い影を落としているに違いない。学校では子どもたちの心のケアにきめ細やかな目配りをしてもらいたい。

 不正合格者の得点は、収賄罪で起訴された元県教委参事らが水増ししていた。元参事のパソコンのデータや元参事らの証言から特定したという。

 不正合格にけじめをつけるのは当然だとしても、心配なのは、大分県教委が今回の採用取り消しで事件の幕引きを図ろうとしているのではないか、ということだ。

 元参事が同じようにかかわった07年度の不正合格者については、裏付けが十分取れないとして不問に付されそうだ。それ以前から得点の改ざんが続いていたことが、今回の処分と一緒に発表された調査報告書で明らかになったが、その責任追及もあいまいだ。

 調査報告書には、採用や昇任で県議や県教委OB、教職員組合役員らが口ききをしてきた、という県教委幹部の証言がある。合格ラインに達しない受験生を押し上げたとの証言もある。

 しかし、具体的に誰が口ききをしたのか。県教委の誰がどのように動いて合格させたのか。責任は誰が負うべきなのか。そうした県教委の不正の構造が明らかになっていない。

 もうひとつの疑問は、不正が小中学校に限られていたのかどうかだ。教員の不正採用疑惑を警告してきたNPO法人「おおいた市民オンブズマン」には「高校の方がひどい」という情報がいくつも寄せられているという。これをどう受け止めるのか。

 今回の事件を受けて、大分県教委は採用試験を県人事委員会との共同実施に改めた。「口きき防止要綱」も決めた。2次試験の判定基準の一層の明確化も図るという。

 だが、これまでの事実と責任の所在の解明なしには、いくら対策を並べても、絵に描いた餅になりかねない。内部調査ではこれ以上解明できないというのなら、外部の第三者に委ねてはどうか。不正をチェックできなかった教育委員も一新した方がいい。

 長年の悪弊をどのように絶ち、再生を図るか。全国の目が注がれていることを忘れてはならない。

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