■著者からのメッセージ
1995年に一連のオウム真理教事件が起き、また発覚した直後に、私は、この事件を社会学的に分析した『虚構の時代の果て』(ちくま新書、ちくま学芸文庫より近刊)を執筆した。その際、事件を、(日本の)戦後の精神史の中に位置づけようと試みた。私は、見田宗介先生のアイデアに触発されながら、戦後の精神史は、「理想の時代」から「虚構の時代」へと転換してきており、オウム真理教事件は、「虚構の時代」の限界・終焉を印づける出来事ではないか、と考えたのであった。本書は、前著の中では暗示的・消極的にしか語られていなかった「虚構の時代の後」が、つまり現在が、どのような時代なのかを、積極的に記述し、説明する試みである。
ミネルヴァのふくろうは夕暮れに鳴くという。だが、ふくろうを出来事が進行している渦中に、昼間のうちに鳴かすことはできないだろうか。そもそも昼間のうちに鳴くことができないのならば、ふくろうの存在など何であろうか。さらに言おう。昼間はほんとうは、夕暮れのふくろうを一種のユートピア的な期待のようなものとして最初から胚胎させているはずではないか。それならば、先取りされている夕暮れの視座を昼間のうちに占め、そこから昼間を捉え、鳴くことが十分に可能なはずではないか。こういう思いから、私は、本書を執筆した。 |