編集部だより






 

不可能性の時代
大澤真幸著
(新赤版1122)

 
 
  ……われわれは、この暴力的な「現実」への逃避がもたらす閉塞の有り処を、「理想の時代/虚構の時代/不可能性の時代」という(日本の)戦後史の三区分を経由しながら探り当てた。この閉塞に対して、われわれは、どのように対抗することができるのだろうか? 不毛な破壊(の擬制)に身を委ねることなく、この閉塞を克服することができるのだろうか?  
 
(本文より)
 
 
 

■内容紹介
 「現実から逃避」するのではなく、むしろ、激しく、時には破壊的でもある「現実へと逃避」する者たち―。彼らは一体何を求めているのか。戦後の「理想の時代」から、1970年代以降の「虚構の時代」を経て、1995年を境に迎えた特異な時代を、戦後精神史の中に位置づけ、息苦しい閉塞感からの打開の可能性を模索していく。「不可能性」に対峙するには、どのような方法が求められるのか。

 生きがたい現実に対し、真摯に希望を探り続けて絶大な支持を集める大澤社会学、最新の地平。

 
 
 

■著者からのメッセージ
 1995年に一連のオウム真理教事件が起き、また発覚した直後に、私は、この事件を社会学的に分析した『虚構の時代の果て』(ちくま新書、ちくま学芸文庫より近刊)を執筆した。その際、事件を、(日本の)戦後の精神史の中に位置づけようと試みた。私は、見田宗介先生のアイデアに触発されながら、戦後の精神史は、「理想の時代」から「虚構の時代」へと転換してきており、オウム真理教事件は、「虚構の時代」の限界・終焉を印づける出来事ではないか、と考えたのであった。本書は、前著の中では暗示的・消極的にしか語られていなかった「虚構の時代の後」が、つまり現在が、どのような時代なのかを、積極的に記述し、説明する試みである。

 ミネルヴァのふくろうは夕暮れに鳴くという。だが、ふくろうを出来事が進行している渦中に、昼間のうちに鳴かすことはできないだろうか。そもそも昼間のうちに鳴くことができないのならば、ふくろうの存在など何であろうか。さらに言おう。昼間はほんとうは、夕暮れのふくろうを一種のユートピア的な期待のようなものとして最初から胚胎させているはずではないか。それならば、先取りされている夕暮れの視座を昼間のうちに占め、そこから昼間を捉え、鳴くことが十分に可能なはずではないか。こういう思いから、私は、本書を執筆した。

 
 

(「あとがき」より)

 
 
 

■著者紹介
大澤真幸(おおさわ・まさち)
1958年長野県に生まれる。東京大学大学院社会学研究科博士課程修了。千葉大学文学部助教授などを経て、現在、京都大学大学院人間・環境研究科教授、社会学博士。
専攻―比較社会学・社会システム論
著書―『行為の代数学』『性愛と資本主義』『帝国的ナショナリズム』(青土社)、『身体の比較社会学 I・II』(勁草書房)、『電子メディア論』(新曜社)、『虚構の時代の果て』『戦後の思想空間』(ちくま新書)、『恋愛の不可能性について』『現実の向こう』(春秋社)、『<不気味なもの>の政治学』(新書館)、『文明の内なる衝突』(NHKブックス)、『思想のケミストリー』(紀伊國屋書店)、『ナショナリズムの由来』(講談社、毎日出版文化賞受賞)など多数

     
 

■目次
 序 「現実」への逃避

 
 
I
理想の時代  
  1 敗戦という断絶=連続
2 理想の時代
3 死者の来訪 
 
II
虚構の時代  
  1 二つの少年犯罪
2 虚構の時代
3 理想から虚構へ、そしてさらに… 
 
III
オタクという謎  
  1 オタクという現象
2 アイロニカルな没入
3 社会性と非社会性 
 
IV
リスク社会再論  
  1 二つの「下流」
2 リスク社会とは何か
3 自由は萎える 
 
V
不可能性の時代  
  1 不可能性の時代
2 家族の排除
3 反復というモチーフ 
 
VI
政治的思想空間の現在  
  1 「物語る権利」と「真理への執着」
2 信仰の外部委託
3 〈破局〉の排除
4 羞恥心をめぐって
5 無神論への突破
 

 結 拡がり行く民主主義
 あとがき
 主要参考文献

 

  ■岩波新書にはこんな本もあります  
 
世界共和国へ―資本=ネーション=国家を超えて 柄谷行人 新赤版1001
新米と反米―戦後日本の政治的無意識 吉見俊哉 新赤版1069
社会学入門―人間と社会の未来 見田宗介 新赤版1009
現代社会の理論―情報化・消費化社会の現在と未来 見田宗介 新赤版465
ディズニーランドという聖地 能登路雅子 新赤版132
メディア社会―現代を読み解く視点 佐藤卓己 新赤版1022
 
 
 



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