文部科学省が昨年に続き今年四月に実施した「全国学力・学習状況調査」(全国学力テスト)の結果が公表されたが、やはり事前に予想されたような内容になった。
応用力に課題があることや、都道府県ごとの成績など全体の傾向は昨年とほぼ同じだった。学力は短期間で改善するものではあるまい。教育は「国家百年の計」とされ、結果反映には時間がかかる。このまま毎年、全国的な規模で多額の費用を投じ調査を継続する必然性があるのか疑問に感じざるを得ない。
全国学力テストは子どもの学力低下が指摘される中、全国的な状況を把握し、課題を明らかにする目的で昨年、四十三年ぶりに復活した。今年も昨年と同様、一部不参加の学校を除き小学六年と中学三年の全員を対象に行われ、昨年は約七十七億円、今回は約五十八億円の費用がかかった。
国語と算数・数学の二教科で基礎的知識を問うA問題と、知識の活用力をみるB問題が出題された。平均正答率は小中学校ともA問題よりB問題の方が昨年と同じように10ポイント余り低く、文科省は引き続き「知識の活用に課題がある」と分析した。学習状況調査では生活習慣の確立が重要などとしたが、専門家の調査で一般的に知られている内容にとどまった。
全国学力テストを行った以上、データを詳しく解析し、教育指導の改善などに生かす必要がある。同時に昨年の結果がどのように現場に反映されたのかもさらに検証し、全国の教育関係者の間で情報を共有してもらいたい。
全員を対象にした全国学力テストについては、昨年行われた時から毎年の継続実施に対し疑問の声が少なくなかった。全体の傾向を知ったり、各学校が全国での位置付けを確認するには、三年から五年ごとの調査で十分とする意見がある。一部の学校で実施する抽出調査だけで対応できるという指摘もある。
文科省は「データを積み重ねることで課題がより浮き彫りになる」と反論し、来年以降も継続する方針を崩そうとしない。しかし、基本的な知識に比べて応用力が低いことなどは既に周知の事実であって、文科省の主張は説得力に欠けよう。
それよりも、指導効果があるとされる習熟度別学習や少人数学級の拡充に向け、教員増加などの環境整備に巨額の費用を回す方が賢明ではないか。現場では市町村別などの成績公表をめぐり、混乱が表面化している。公表の在り方も含め、冷静に議論を深めるべきだろう。
「食の安全」を揺るがし、消費者に大きな衝撃を与えた中国製ギョーザ中毒事件の捜査が中国で本格的に動きだした。
中国当局が、六月に中国でも発生した中毒事件でギョーザに入っていた毒物は、製造元の天洋食品(河北省)関係者が混入させた疑いが強いとの見方を日本外務省に伝達したという。日本で起きた中毒事件とともに、真相解明に向けた捜査が大きく前進することを期待したい。
天洋食品が製造した冷凍ギョーザを食べた千葉、兵庫両県の三家族十人が有機リン系中毒になった事件では、日中両国の捜査当局が毒物の混入場所をめぐって見解が対立し、暗礁に乗り上げていた。中国側はこれまで「国内混入」を認めていなかったが、中国でも同じ製品による中毒事件が発生したことで流れが変わった。
中国当局が捜査姿勢を一転させた背景には、日中首脳会談を受けて徹底捜査を指示した胡錦濤国家主席の意向が働いたとみられる。その後の日中外相会談でも協力態勢を強化していくことで合意し、厳戒態勢を敷いていた北京五輪が終わったことで、捜査を積極化させたようだ。
中国側は、一月に発覚した日本の事件をめぐっても、内部犯行の判断に傾いているもようだ。地元捜査当局は対日や工場の待遇など、何らかの不満を持つ食品工場関係者による犯行を念頭に、従業員らの聴取を進めている。また、日本で検出された有機リン系の殺虫剤メタミドホスと中国国内の事件の毒物の成分比較も行っているという。
ただ、現段階では決定的な証拠は乏しく、犯人の特定も難しいのが実情だ。全面解決まで楽観はできない。日本政府は中国当局の捜査の進展を見極めながら、早期解明に向けて情報開示を促していかねばならない。
(2008年9月2日掲載)