教員採用汚職事件で揺れる大分県の小中学校、高校でも1日新学期がスタートし、教頭不在が続いていた佐伯市の3小学校でやっと後任が着任した。しかし、不正合格として採用取り消しを通知された今年度採用の21人の中には、「不正と知らなかった」として反発する声も多く出ている。「苦渋の決断」(大分県教委)に、識者からは「地位保全の訴訟覚悟の決断では」との声も出ており、混乱は学期をまたいで続きそうだ。
不正合格が確認された今年度採用の21人(小学教諭16人、中学教諭4人、養護教諭1人)は、教壇に立って5カ月で採用が取り消されることになる。うち、1人は贈賄容疑で逮捕、起訴された元小学校校長、浅利幾美被告(52)の長男で、既に先月退職している。
県教委義務教育課によると、20人中18人がクラス担任をしており「年度途中で担任が代わるなど、子どもへの影響も考えられる」と不安視する小中学校もあるという。
取り消し対象の教員が勤務する県西部の小学校の教頭は1日、「青天のへきれきの思いだ。県教委は3日までに、本人に対して臨時講師になるか、教員をやめるかの選択を求めているようだ。後任をどうするか考えなければ……」と戸惑っていた。対象教員は、始業式のこの日も出勤し、校長と今後についての相談をしていたという。
浅利被告の長男が勤務していた大分市内の小学校では、後任の男性教諭(27)が、校長から「クラスの新しい歴史が始まります」と紹介された。担任の不正は児童に暗い影を落としている。
小矢文則・県教育長は「(取り消し対象者は)本来、合格すべき者ではなかった。その原因が(試験結果の)改ざんであったということが判明した以上、つらい判断だが、正さないといけない。まさに断腸の思い」と強調している。
取り消し対象20人は、県教委の決定を受けて「取り消し」になるか、「自主退職」とするか3日までに学校長が意思を確認する。【小畑英介、深津誠】
「納得できない。人生が狂うことになる」。県教委から採用取り消しの通知を受けた教諭からは、反発の声が相次いだ。「事実を受け入れることができず、中には涙を流したりする人もいた」(県教委の担当者)という。
県教委改革プロジェクトチーム(PT)の調査報告書によると、元県教委参事の江藤勝由被告(52)=収賄罪で起訴=は、元参事の矢野哲郎(52)▽元校長の浅利幾美(52)両被告=贈賄罪で起訴=の依頼で便宜を図った以外に、頼まれたものはないと話している。
それ以外の20人については、富松哲博・県教委審議監(60)がPTに、「立場上、(第三者から)メモをもらったり、それを江藤(元参事)に『頼む』と言って渡した」と話しており、金銭などを使ってやったのかはっきりしていない。現段階では、親や知人が富松審議監にお願いしていたとしても、金銭の授受がなかったり、本人が全く知らない状況で合格になっていた可能性もある。
本人に全く瑕疵(かし)がない場合でも、自主退職しなければならないのか。若井彌一(やいち)・上越教育大教授(教育法学)は「教員の地位を失ったうえ世間のさらし者となり、県教委のせいで被害者となった気の毒な側面がある」と指摘。「公務員には一定の身分保障があり、採用取り消し者の一部には、県教委相手に訴訟を考える人もいるだろう」とみる。【山本紀子】
文部科学省は1日、大分県教委の報告を受け、「採用取り消しとなる教員には丁寧な説明をすべきだ」などと指示。後任選定などに伴う学校現場の混乱を防ぐことも求めた。銭谷真美事務次官は大分県教委に必要な指導をしていく姿勢を示した。【加藤隆寛】
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■ことば
大分県警は6月、元佐伯市立小校長、浅利幾美(52)と元県教委義務教育課参事、矢野哲郎(52)の両被告=いずれも贈賄罪で起訴=らが、浅利被告の長男、長女の教員採用を巡り現金や金券400万円相当のわいろを、元県教委義務教育課参事、江藤勝由被告(52)=収賄罪で起訴=に贈ったとして逮捕した。さらに、7月、県教委ナンバー2だった元審議監、二宮政人被告(61)が矢野被告らから矢野被告の長女の採用を巡って金券100万円分を受け取ったとして収賄容疑で逮捕。富松哲博・県教委審議監(60)=退職願を提出し、入院中=についても、矢野被告の参事昇任を巡って20万円分の商品券を受け取った収賄容疑で逮捕する方針を固めている。
毎日新聞 2008年9月2日 東京朝刊