余録

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余録:ハリケーン

 ニューオーリンズ名物の「ハリケーン」はラムとパッションフルーツで作るピンクのカクテルだ。甘くて口当たりがいいが、結構強いお酒なので要注意だ。しかもハリケーングラスと呼ばれるランプのほやのような形のグラスになみなみと注がれている▲だから観光名所のバーボン通りは、いつもハリケーンを過ごしてふらつく人も交じってにぎわいを見せる。しかし今、そのバーボン通りからは人影が消え、迷彩服の州兵がゴーストタウンのような街を巡回する映像が各国に配信されてきた▲怖いハリケーンもカクテルにして飲み干す陽気な市民だが、3年前のカトリーナの悪夢は忘れられるものではない。大型ハリケーン・グスタフの接近で、ルイジアナ州南部の沿岸からは何と住民の9割にあたる約190万人が避難したという▲ぎりぎりまで様子を見る人が多くて道路は大渋滞、近場のホテルはすぐ満室になり、泊まれる宿までは10~20時間、健康な大人もげんなりする。その費用や労力は実に大変--現地在住の米倉美貴さんは「地球の歩き方」にハリケーンで繰り返される避難の苦労をそう書いている▲ただそれも命あってのモノダネと思い知らされたのが、避難できない貧困層を直撃したカトリーナの惨禍だった。対応の遅れが非難を浴びたブッシュ大統領は、今度は早々と非常事態宣言を出し、連邦政府関係機関に万全の対策を命じた▲だが近年の大型ハリケーン頻発は、やはり地球温暖化の影響との見方が有力だ。こと本格的な温暖化対策はもう次の政権にまつしかない。危険を知りながらもついつい過ごし、ひどい目を見るのは名物のカクテルだけにとどめたい。

毎日新聞 2008年9月2日 0時05分

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