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NIKKEI NET

社説 解散戦略描けず行き詰まった福田政権(9/2)

 福田康夫首相が緊急記者会見し、退陣する意向を表明した。首相は「今が政治空白をつくらない1番いい時期と考えた。新しい人に託した方がいい」と述べ、次期臨時国会前の時期を選んで辞意を固めたことを明らかにした。

 8月に内閣改造に踏み切ったばかりの首相の政権運営が行き詰まったのは、最後まで衆院の解散戦略を描けなかったためである。

次期首相は早期解散を

 衆参ねじれ国会という厳しい局面で昨年9月に就任した首相は当初、民主党との大連立で政権を安定させる道を模索したが、この構想が頓挫してからは、国会での法案処理で手いっぱいだった。

 本紙の直近の世論調査で、内閣支持率は改造直後の前回調査の38%から29%に低下。与党内では「支持率が低迷する福田首相の下では選挙を戦えない」との見方が広がっていた。このまま手をこまぬいていれば、次期衆院選への危機感から「福田降ろし」の動きが表面化する恐れもあった。

 とりわけ年末・年始の早期解散にかじを切った公明党は、福田政権に厳しい姿勢を鮮明にし始めた。首相と公明党との間では、臨時国会の召集時期や会期をめぐり不協和音が絶えなかった。

 首相は臨時国会で、インド洋上での給油活動を延長する法案や消費者庁設置法案の成立に意欲を示していた。しかし民主党は給油延長法案などに反対する方針を崩さなかった。給油延長法案を成立させるには、衆院で3分の2以上の賛成で再可決するしか手はなかったが、公明党の協力を取り付けられぬまま、臨時国会に臨まざるを得ない状況だった。

 衆院解散で局面を打開することができない首相は早晩、退陣に追い込まれる可能性が高かったといえる。政治空白を最小限にとどめるために、国会召集前に辞意を固めた首相の判断は理解できる。

 しかし前任の安倍晋三首相は1年で政権を投げ出し、福田首相も衆院選の洗礼を受けぬまま、1年で退陣する。与党内の政権たらい回しで、3人目の首相が誕生するのは極めて異常な事態である。

 記者会見に先立ち、首相は麻生太郎幹事長に「総裁選の日取り、手続きを進めてほしい」と指示した。自民党は速やかに総裁選を実施して、新政権を発足させる必要がある。

 だれが首相になっても、早期に衆院を解散して有権者の審判を受けなければならない。衆院選の実施こそが、政治空白を短期間にとどめる道だろう。

 一方、民主党の小沢一郎代表は記者会見で、党代表選への出馬を正式に表明した。告示日の8日に無投票三選が確定し、21日の臨時党大会で選出される見通しになっている。小沢氏は次期衆院選で民主党の首相候補になるが、党大会で政権構想のもとになる所信を発表する意向も示した。

 今回の代表選では有力な対抗馬と目された岡田克也、前原誠司両副代表らが相次いで不出馬を表明。出馬への意欲を示した野田佳彦広報委員長は、支持グループの中から反対論が出て、出馬を断念した。

 私たちは代表選で活発な政策論争をしたうえで、次期衆院選のマニフェスト(政権公約)を練り上げるよう求めてきた。党の存在感を高める絶好の機会を自ら封じてしまったことは遺憾である。

小沢氏は政策を語れ

 首相の退陣表明に伴い、自民党では急きょ、総裁選が行われる見通しになった。自民党との対比においても、代表選が無投票で終わることは有権者にも物足りなさを残すに違いない。

 小沢氏は記者会見で次期衆院選の政権公約について、昨年の参院選の公約と「大筋の考え方は変わらない」と説明した。

 しかし参院選の公約は農業の戸別所得補償や子ども手当など総額15兆3000億円の新規施策の財源の大半を、行政の無駄を省くことで生み出すというもので、説得力に欠けた。その後、民主党はガソリンの暫定税率の廃止などの新たな施策を打ち出しており、党内からも財源の裏づけが不十分との批判が出ている。

 民主党政権ができれば、政権公約に沿って予算編成などに取り組むことになる。今後の政権公約づくりなどで、小沢氏はもっと政策を語るとともに、批判にも謙虚に耳を傾ける姿勢が必要だろう。参院選の政権公約を吟味したうえで、政策の優先順位などをはっきりさせる作業が不可欠だ。

 首相の退陣表明で衆院解散・総選挙は年内に行われる可能性が強まってきた。次期衆院選は文字通り政権選択をかけた歴史的な選挙となる。自民、民主両党は政権公約を示すことが急務であり、その中身が党の消長に直結する。