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【即興政治論】映画「闇の子供たち」原作者 梁 石日さん Q 政治の不作為、感じますか?2008年7月15日 タイを舞台に人身売買や幼児売買春・ポルノ、臓器密売という衝撃的な題材を描いた映画「闇の子供たち」が来月公開されます。折しも臓器移植や児童ポルノ問題で政治の責任が指摘されています。原作者の梁石日さんと「政治の不作為」について考えてみました。記者・清水 孝幸 清水 梁さんが原作の小説(同名)を発表したのは二〇〇二年。なぜ、当時、こんな目を背けたくなるような題材を取り上げたのですか。 梁 私のテーマの一つに(抑圧、捨象された)「アジア的身体」があるわけで、その一つの問題意識です。当時、日本からアジアにどんどん買春旅行に行っていたこともあったでしょうね。 清水 六年前の小説を映画化したのに、貧しい国の子供たちの悲惨な現実は「いま」の問題のように感じました。 梁 むしろ、こういう問題はもっと深刻化しているというか、拡大していると思いますね。ですから、いま映画を見ても、時間的な差異は感じないのでしょうね。 アジアだけでなく世界的に見ても、ストリートチルドレン(路上生活の子供)の数は増えていると思いますね。やっぱり世界的に格差社会が広がり、深まっているのではないですか。矛盾というものは一番きつい形で、弱者にくるんですよ。 清水 作品の中に臓器移植でしか助からない日本人の子供が出てきますね。国内では制度的に子供の臓器は手に入らないし、米国などに渡ってドナーを待つ猶予もない。だから東南アジアで移植を受ける。そこでは貧しい子供が買われ、生きたまま心臓を取られ、ドナーにされる。 悲劇の背景には貧困だけでなく、日本の臓器移植の法制度の不備もあります。先月、国内の患者団体が「国会の不作為」と批判しました。 梁 政治の不作為を意識して小説を書いたわけではありませんが、くしくも、こういう問題が置き去りにされてきた。この先、どのくらい展望が開けているかというと、まだまだ疑問ですよね。 日本は一歩遅れていると思いますが、世界的にみても、解決しなければいけない課題がたくさんある。僕は具体的な問題を書けるわけではないけど、本質的な問題として提起しているわけです。 これを契機に、日本も子供の臓器提供とか、もう一歩踏み込んで議論していけばいいんじゃないかなあと思うね。 清水 児童買春・ポルノの問題も作品の大きなテーマです。先の国会で児童ポルノの「単純所持」を処罰対象にする法改正が議論されました。これも一九九九年に販売などを罰する児童ポルノ禁止法が成立して以降、先送りされてきた課題です。 梁 規制はやっぱり必要ですよ。東南アジアだけでなく、いまでは中国でもそういう問題が起こっています。格差社会が広がっていることを考え合わせれば、規制し、なくす方向の働き掛けが必要だと思いますよ。 だからといって、なくなるかどうかは別の話ですよ。それでも「とんでもない問題だ」と絶えず発信していかないと。野放しはまずいですよ。やり放題になる。 清水 遠い国の話のように感じますが、貧困や格差が原因だとすると、日本だって他人事(ひとごと)ではないってことですか。 梁 小学校五、六年生が渋谷にあこがれて家出し、売春をやってるわけですからね。こういう子供がこれから増えてくるかも分からないよね。 何も好奇心で渋谷に出てくるわけじゃなくてね。格差社会は一方では、お金というものに対して非常に強い欲望を持ちますから。子供だって、そういう欲望を持っているわけですよ。 清水 こうした現実をなくすにはどうしたら。 梁 まず買わないことです。十年くらい前、フィリピンを訪れた時、十五歳から十八歳までの女の子がいるという店を見に行ったんですよ。踊りが始まって、しまいには全裸になって、ふっと振り返ってみると、人がいっぱいよ。もう90%が日本人。日本の商社マンとか旅行に来てる人とか、一見、サラリーマン。今でもなくなっているわけではないですよ。 清水 政治は何をすべきですか。 梁 方法は一つとか二つとかいう話じゃないと思いますよ。いろんな方法を模索しながら(途上国と)お互い協力し合ってやらないと。 例えば、東南アジアを支援する円借款とか無償資金供与とかあるでしょう。ああいうのは向こうにいったら、だいたい(役人が懐に)ぽっぽするからね。だから、ボランティアでもいいだろうし、やり方はいろいろあると思うんです。 人間性の根本的な問題だから、とにかく問題意識を持つことです。 ヤン・ソギル 在日コリアン作家。1936年大阪府生まれ。事業の失敗や放浪生活を経て、タクシードライバーとなる。そのときに書いた「タクシー狂躁曲」が映画「月はどっちに出ている」となり、話題を集める。「血と骨」で山本周五郎賞を受賞。「夜を賭けて」「修羅を生きる」「夏の炎」「冬の陽炎」など著書多数。
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