物価の二次的波及は金融政策運営に依存=日銀総裁

2008年 09月 2日 12:30 JST
 
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 [名古屋 2日 ロイター] 白川方明日銀総裁は名古屋での各界代表者との懇談会で講演し、世界経済はより持続的な成長過程への移行過程にあり、ある程度のスピード調整を経なければ次の発展への条件が整わないとの考えを示した。

 さらに、一般的な金融政策運営への教訓として、金融緩和の行き過ぎが時間を経て経済の大きな変動をもたらすという観察を大事にする必要があるとして、金融緩和長期化がもたらすリスクへの注意が必要だとも述べた。日本経済については当面停滞を続けるが深い調整には陥らないとの見解を示した上で、物価の二次的上昇が発生するかは最終的には金融政策の運営スタンスに規定されると述べ、そうした事態を招かないよう強い決意で政策運営にあたる考えをにじませた。 

 <世界経済減速避けられず> 

 白川総裁は、世界経済の動向について「世界経済の成長率はなお高水準とはいえ、減速は避けられない」との見通しを示した。その背景として「米国経済は現在、資本市場と資産価格、実体経済の負の相乗作用が、いつ、どのように収束に向かうのか、その帰すうがみえない状況にあり、しばらくは、停滞が続くとみられる」、「欧州経済も減速傾向が強まっているほか、中国やインドでは高成長が続いているが、NIEs・ASEAN諸国では、輸出が減速しているほか、内需にも減速の兆しがみらる」と指摘した。

 <緩和行き過ぎは時間を経て経済に大きな変動もたらす>

 最近のエネルギー・原油価格の上昇とサブプライムローン(信用度の低い借り手向け住宅ローン)問題に端を発した国際金融市場の動揺については、先月の大阪での講演と同様の分析を行った。その上で「やや中期的な観点からみると、原油価格上昇とサブプライム・ローン問題がそれぞれ独立した現象ではなく、両者に共通した背景がある」と指摘。

 総裁は「現在の世界経済は、より持続的な成長過程への移行過程にある。成長の減速ということはどの国にとっても苦しい過程ではあるが、ある程度の世界経済のスピード調整を経なければ、資源価格の安定も含めた次の発展への条件が整わない」とした。さらに「一般的な金融政策運営への教訓としてだが、金融緩和の長期化がもたらすリスクへの注意が必要」だと述べた。

 その上で、「サブプライム・ローン問題だけでなく、日本のバブルも含め、過去の金融活動や資産価格の過熱局面を振り返ると、その多くは、物価が安定し、低金利が持続した後に発生している」と指摘し、「金融緩和の行き過ぎはある程度の時間を経て経済の大きな変動をもたらすことが多いという観察は、素朴だが、大事にする必要がある」と述べて、低金利の長期継続のリスクをあらためて強調した。 

 また今回のエネルギー・原材料価格の上昇について、「これまでのような高騰はさすがに長続きしないとしても、過去のような低価格の世界に戻る可能性は小さいと考えるべき」と述べ、「かつてのような一時的な供給ショックという意味合いで石油ショックと呼ぶことは、必ずしも適当ではない」と述べた。その上で「新しい価格体系に適合するよう企業の生産構造を転換し、資源の効率的な配分を進めるとともに、これを新たなチャンスと捉え、競争力の強い分野を創出していくことが一層重要になる」との見解を示した。 

 <物価二次的波及の発生は金融政策運営にかかっている> 

 日本経済について白川総裁は、「景気の先行きは、エネルギー・原材料価格高の影響と海外経済の減速に伴う輸出の増勢鈍化などから、当面、停滞を続ける可能性が高いが、深い調整に陥る可能性は小さい」との従来の見解を繰り返した。その背景の一つとして緩和的な金融環境を挙げた。総裁は「建設・不動産や中小企業では、資金繰りが厳しさを増しつつあり、注意が必要」としながらも、「日本の金融環境は全体として緩和的。政策金利であるコール・レートは0.5%という低い水準にあり、消費者物価上昇率を引いた実質短期金利はマイナス。企業の調達コストも低水準が続いており、引き続き企業活動を下支えする」との見解を示した。

 物価については、「足元の消費者物価上昇率の数字は、物価安定の範囲の上限を超えている」との認識を示した。ただ「重要なことは二次的効果が発生するかどうか」だとし、「この点では、物価安定への信認が維持されているかどうかが決定的に重要であり、最終的には金融政策の運営スタンスに規定される」と日銀の姿勢が重要との認識を示した。その上で「二次的効果の発生の有無を判断する上でひとつの重要なデータは賃金の動きであり、現在のところ、賃金の伸びは弱含んでいる」として、二次的効果は生じていないとの見方を示した。

 金融政策運営については「現在は、景気の下振れリスク、物価の上振れリスクの双方に注意が必要な局面にある」としながらも、「景気の下振れリスクが薄れる場合には近年の世界経済の経験が示すように、緩和的な金融環境の長期化が経済・物価の振幅をもたらすリスクも意識する必要がある」と述べた。金融政策運営にあたっては、引き続き、先行きの経済・物価の見通しとそのがい然性、上下両方向のリスク要因を見極めた上で、それらに応じて機動的に政策運営を行っていく方針」との従来の見解を繰り返した。

 質疑応答の中で白川総裁は、米国経済が新興国経済に与える影響について「大きな流れとしては、米経済の減速は世界経済の減速につながっていると感じているが、成長率が大きく低下するとはみていない」とした上で「成長率がどうなるかは、どういう政策対応をするかということが大きい」との見解を示した。新興国では成長率のポテンシャルは高いとして、インフレ率に比べて短期実質金利が低いことから持続的な成長を下支えするとの見方を示した。 

 中国経済については、オリンピック後も大きく落ち込むことはないとの見通しを示したものの、高度成長が終わった後にどう安定成長に移行できるかが中長期のリスクだと述べた。 

(ロイター日本語ニュース 中川泉記者)

 
 
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