全国平均を大きく上回った、または下回った都道府県の顔ぶれは変わらない。29日に発表された全国学力調査の結果だ。だが、なぜそうなったのか、分析は不十分と専門家は見る。発表が早まったことには学校から歓迎の声があがっているが、調査自体について与党から疑問視する意見も出ている。
■秋田―「少人数学級の効果」、沖縄―「すぐ向上無理」
秋田県は今回も小6の全科目で1位だった。前回の結果から、国際調査で上位のフィンランドになぞらえて「日本のフィンランド」と呼ばれ、20都道府県から視察を受けてきた。「01年度から始めた少人数学級や02年度からの全県テストの効果も考えられる」と県教育委員会はみる。
中3の3科目で1位の福井県。「少人数学級を強化し、地域ボランティアが指導した成果では」と県教委。
下位県の顔ぶれも変わらない。昨年に続いて全科目最下位の沖縄県。この1月から、中学の数学で、県内30校に退職教員ら「学力向上サポーター」を派遣。今春、小中学校に入学した子どもには「家庭学習の手引」を配り、家庭で学習習慣の定着を目指す。「取り組みは始まったばかり。すぐ得点アップとはいかない」と県教委は話す。
高知県も中学で昨年同様全国平均を大きく下回った。7月の補正予算で、特に結果が悪かった中学数学で小単元ごとにテストをする対策を盛り込んだ。県教委職員が秋田県を視察し目にした。
今年もすべての科目で全国平均を大きく下回った大阪府。「2年連続でこのざまは何だ。最悪だ。民間なら減給は当たり前」。橋下徹知事は29日夕、報道陣を前に教委と現場を激しく批判した。
9月から始まる府内の約半数の小中学校での習熟度別授業や、公立小中学校で地域の学生や退職教員らが授業をする放課後学習などを挙げ、「僕が全部提案したことだ。教委はなぜ自分たちで対策を考えないのか」と怒った。
上位・下位が大きく変わらないことについて、各自治体の社会経済的な背景を指摘するのは志水宏吉・大阪大大学院教授(教育社会学)だ。大阪府の学力調査の分析や学校のフィールド調査で、就学援助率の高さなど地域の経済的環境の影響を感じた。「文科省は検証を都道府県に丸投げしているきらいが強い。下位層をどう底上げできるかを研究しなければならない。それこそが国の役割ではないか」
■発表早まり「ありがたい」
調査から結果発表まで約4カ月。昨年は半年かかり、「遅すぎる」と批判されたが、今年は2カ月早まった。
山形県米沢市立第四中学校の金俊次校長は「ありがたい」と話す。県、市が実施する学力テストはなく、全国学力調査は、全国との比較に使える貴重な物差し。昨年より指導に反映できそうだ。
名古屋市立明倫小学校では早速、保管してある問題用紙を使って、再度、問題を解かせるつもりだ。吉田亘校長は「返却が早まった分だけ、児童の弱いところを丁寧に教えることができる」。
採点の混乱などがあった昨年の反省をいかし、文科省は今回、準備期間で解答類型の洗い出しに時間をかけ、採点を派遣社員ではなく請負企業が自社で雇った人が行うよう指導。目標だった「8月中の結果公表」にこぎ着けた。
もっと早くという声もある。大阪市立堀江小学校の崎谷善朗校長は昨年、結果を分析した上で6年生を集め、児童たちが苦手だった設問について考え方や解き方を説明した。「2学期に結果をもらっても遅い。調査のすぐ後に速報結果を出してくれれば、弱点をもっと丁寧に教えることができるのに」と話す。
■調査不要の声に文科相「続ける」
特定学年の全員に対する調査を毎年する必要があるのかは、専門家から疑問が上がっており、自民党のプロジェクトチームも調査について「今のままなら不要」としている。これに対し、鈴木文部科学相は29日、「長期的な教育投資を考えていく上でのデータは必ず必要。(全員に対する調査として)続けていくべきだと思う」と話した。
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