◎福田首相辞任表明 八方ふさがりで致し方なし
福田康夫首相の突然の退陣表明に驚きを禁じ得ない。折しも小沢一郎民主党代表の無投
票三選が確実になった日である。重圧に耐えかねて政権を放り出したと非難されても仕方がない面もあろうが、八方ふさがりの政治状況と政策的な行き詰まりを思えば、辞任は致し方ない気もする。二代続けて首相が唐突に退陣する「異常事態」は、衆参ねじれ状況のなかで、国民の信を問う総選挙を無理やり先延ばししてきたツケが回ってきたともいえる。日本の対外的信用も大きく毀損されたと言わねばならない。
辞任に伴って次の焦点は、自民党総裁選に移る。後継選びは麻生太郎幹事長を軸に進む
と見られるが、だれになるにせよ、解散・総選挙の時期は確実に早まったといえるのではないか。戦後政治をリードしてきた自民党政治の「弱体化」で、政治の潮目は大きく変わるかもしれない。
福田首相は、約一カ月前に大幅な内閣改造を断行したばかりだった。人気の高い麻生氏
を幹事長に起用するなどして、低支持率にあえぐ政権を立て直し、内政・外交の重要課題に取り組む姿勢を示すものだったはずである。臨時国会の召集を控えたこのタイミングで、辞任を決意したのは、総合経済対策を行うための補正予算案や新テロ対策特別措置法の延長、消費者庁設置法案などが成立するめどが立たぬことに、行き詰まりを感じたからだろう。公明党との間に秋風が吹き始めたことも重圧になっていたのではないか。
会見で福田首相は、先の通常国会で、審議拒否や引き延ばしをした民主党へのうらみ、
つらみを口にした。自分が身を引くことで、事態を打開したいと思ったのかもしれないが、それは後継者にそっくり重い荷物を背負わせるだけであって、無責任のそしりはまぬがれない。
ただ、だれが次期総理・総裁の座に就いてもこの状況を容易に打開できないだろう。福
田首相と同様、イバラの道を歩むことになる。参院選での歴史的惨敗で、政治状況が一変した現実の厳しさを、自民党はまた思い知らされることになるかもしれない。
◎小沢氏出馬表明 参院選公約はもう古い
民主党代表選への出馬を表明した小沢一郎代表が次期衆院選を「政権交代最後のチャン
ス」と位置づけ、本気で首相の座を目指すなら、政権を担うにふさわしい考え方を示してほしい。福田首相の辞任は民主党にしてみれば政権担当能力を示すまたとない機会となろう。小沢代表は参院選マニフェストを大筋で踏襲するとしたが、一年余を経て国内の経済状況や国際情勢は大きく変化しており、参院選公約も色あせているものがあるのではないか。
政府・与党の総合経済対策を「選挙向け」「ばらまき」と批判するなら独自策を打ち出
してほしいし、参院選で示した農家戸別所得補償制度や子ども手当などの財源も明確に示してもらいたい。でなければ、総合経済対策への批判は説得力に欠ける。新テロ特措法の対案としてまとめた民主党案についてもアフガニスタン情勢が悪化し、民生支援するための自衛隊や民間人派遣はより困難な情勢になっている。テロとの戦いについても現実に即して語る必要がある。
参院選公約をめぐっては前原誠司副代表らが財源の裏付けが乏しいことを指摘し、党内
には不満もくすぶっている。代表選はそれらも議論し、政策の実効性を高める機会にすることができたはずだ。だが、現執行部のベテラン議員がいち早く小沢氏支持を表明し、出馬を模索していた野田佳彦広報委員長らも最終的に断念した。
解散・総選挙の足音が近づく中、代表選は次期首相を選ぶという性格がより強まってき
た。小沢氏以外に適任者が見当たらないのが現実かもしれないが、気になるのは小沢氏一本化の過程で党内対立をいたずらに怖れたり、不満分子を抑え込むような内向きの論理が垣間見えたことだ。
福田内閣の支持率が伸び悩んでいたにもかかわらず、民主党が不支持層を十分に取り込
めないのは、国民が政権担当能力に疑念を抱いているからであり、その責任は小沢氏個人にもある。小沢氏は正式に選出される二十一日に政権構想を語るとしているが、その前にまず八日の代表選告示で大枠を明らかにするのが筋だろう。