死者1人を含め多くの被害者を出した伊賀市上野車坂町の診療所「谷本整形」の院内感染問題。ずさんな衛生管理の実態を県から指摘された谷本広道院長は29日、改善報告書を伊賀保健所に提出した。その後の記者会見で、感染の原因となった点滴薬剤の作り置きについて、看護師への指示を従来同様、否定した。県の診療自粛要請を受けて現在休診中の診療所の再開についても、「保健所と相談しながら考えていきたい」と述べるにとどまるなど、改めて問題の大きさが浮き彫りとなった。【傳田賢史、金森崇之】
この日、谷本院長は、同保健所(四十九町)を訪れ、中山治所長に業務改善報告書や新たに策定した院内感染対策マニュアルなど計約140ページの文書を提出した。文書では、点滴による感染防止策として▽清潔な区域での調合▽清潔な手指での操作--などを挙げ、「調合後の点滴は速やかに使用する」としている。
その後、谷本院長は、市中央公民館(上野丸之内)で記者会見した。冒頭、被害者らに改めて陳謝。点滴の作り置きについては「作り置きは見たことがない。看護師がしていたことは知らなかったし、誰が指示をしたのか知らない」と自身の関与を改めて全面否定。「院長として監督不行き届きだった」と述べるにとどめた。作り置きは開業当初からしていたのではないかとの報道陣の質問には「事実無根」と否定した。
また、1日100人もの患者に点滴治療を施していたことについては、「(点滴より注射や投薬を優先すべきとの)県医師会の指摘は妥当と考えている」と述べ、「今後は適応症をよく考えて点滴を実施したい」と話した。
谷本院長の改善計画提出について、被害者らからは賛否両方の意見が出された。6月9日に谷本整形で点滴を受けて入院した伊賀市在住の主婦は、「県の診療自粛要請が解けたら再開するのはいいと思う」とした上で、まだ具体的な補償の話し合いがないことに触れ、再開の時期について「被害者を置き去りにせず、けじめを付けてからにしてほしい」と注文を付けた。一方で、同整形に通っていた同市在住の主婦(69)は「衛生面には気を付けて、少しでも早く再開してほしい」と話した。
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◆会見一問一答
谷本広道院長の記者会見の主なやりとりは次の通り。
--点滴薬剤の作り置きを知らなかったのか。
認知していない。
--作り置きの指示をしたことは。
ない。
--(点滴は)看護師に任せていたのか。
結果としてはそうなると思う。
--診察せず、点滴だけして帰る患者もいたのか。
分からないが、ないとは言えない。
--点滴を多用する治療法は、間違っていたのではないか。
点滴行為すべてが間違っていたわけではないが、間違った部分も多いのではないかと思う。
--金もうけ主義ではないのか。
反省しているが、利益優先ではない。
--ずさんな衛生管理については。
タオルを複数人で使用していた事実は認知している。消毒液(を薄めていたこと)については認識していなかった。
--被害者に対しては。
患者及び家族のところに直接行って謝罪している。
--(患者との)信頼関係はどう築くのか。
社会に対しては、一つ一つ改善していくことがせめてもの責任の取り方ではないかと考えている。
--診療再開を考えているのか。
はい。
--それはいつ。
保健所と相談しながら考えていきたい。
--自分に医師の資格はあると思うか。
はい。
〔伊賀版〕
毎日新聞 2008年8月30日 地方版