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【学校臨床の現場から】

非行少年に就労支援の試み

2008年03月13日

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挿画:佐賀 規子

 先月末に北海道沼田町を訪ねた。旭川から雪道を車で1時間余り、昨年10月に開所した「沼田町就業支援センター」の職業訓練研修に講師として参加するためだ。ここは、わが国初の宿泊施設を備えた保護観察所の駐在官事務所である。

 「住所不定・無職」。犯罪報道でしばしば耳にするフレーズである。少年非行の場合も、家庭など落ち着き先がなく、学校へ行かず、職にも就いていないことがその要因となっている。自立=立ち直りといってよいが、ニート問題が深刻なように、青少年に就労支援を行うことが、非行臨床でも不可欠なのである。

 少年院から仮退院中などの保護観察を受けている青少年が、農業を通じて自立を目指す。そのための訓練を保護観察所が委託して、沼田町が運営する実習農場において専門指導員が行っている。肉牛の成育に加え、トマトなどの野菜作りをしているが、今は、シイタケの温室栽培やパック詰めの作業に4人の少年がまじめに取り組んでいた。

 親との関係不良といった家庭の事情で少年院からの帰住先がなく、さらに非行性が進んでいるなど民間の更生保護施設では引き受けてもらえなかった少年たちである。つまり、処遇困難事例ということになるが、1年という標準期間のなかで、果たして自立に役立つ農業実習ができるのか、疑問は当然だ。

 豊かな自然環境の下で、「いのち」を育てる体験が人格的な成長につながることは間違いない。だが、私は農業という自然相手の作業により、思い通りにならない、仕方がないこともある、そして、人と協働してことに当たるといったソーシャルスキルを体験的に学ぶことに特に意味があると考えている。

 不登校やニートでも同じだが、与えられた状況や周囲の人と折り合いをつけてどうにかやっていく。そういう術(すべ)を知らない子どもたちが目立つからだ。自然の感銘力ではなく、いかんともしがたいところに非行臨床家としては注目したい。

 今年の6月には定員である12人近くまで増える計画と聞いたが、もちろん課題は多い。まず、実習期間を過ぎたらどうするのか。農業に就く希望があるなら地元に残るという選択肢はあるという。しかし、そうでなければ、強力な家族調整によっても家庭へ戻れないときは新たな生活する場所を保護観察所の責任で探さなくてはいけないだろう。

 最後に人的スタッフの充実だ。駐在保護司や補助職員の応援はあるとはいえ、わずか2〜3人の保護観察官で365日、24時間きめ細かい生活指導を行うことは困難だ。通常のアパートと変わらない緩やかな構造だからこそ、少年院以上の専門職員数が必要なのは自明である。立ち直りに国が責任をもつ、この当然の試みがぜひ成功して欲しい。
(福島大学大学院教授 生島 浩)

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