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【学校臨床の現場から】

(111)更正、社会の支えが生命線

2008年08月21日

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挿画:佐賀 憲子

 「住所不定・無職」、犯罪報道の常套句(じょうとうく)にもなっているが、この二つが犯罪の要因にもなっている。更生意欲のある刑務所からの出所者に生活の場と糧を与え、満期ではなく仮釈放にして国が指導監督するために建設するのが「自立更生促進センター」だ。

 このような刑務所からの仮釈放者は、出所時に必ず出頭し、就労支援など社会適応に関する継続的な指導を行って、社会復帰を図るのが私の前職である保護観察の仕事だ。
 だから、保護観察所の敷地内にセンターを建設したのは理にかなっていると思うが、どこでも県庁所在地の官庁街にあり、福島市の場合は、特に学校が集中する場所であった。その点に配慮が足りず、保護観察所の説明に不備があったのは事実であろう。

 私がショックを受けたのは、「犯罪者が街を歩きまわって危なくないのか」という地域住民の声であった。報道の量は多いが、犯罪の数量は、03年以降減少しているし、殺人などの凶悪犯(前年比10、6%減)や子どもの被害件数(同1、4%減)も同様である。

 性犯罪者に関心が高まっているが、平成19年版犯罪白書によると、確かに約3割に何らかの再犯があったが、性犯罪を繰り返した者は5%にすぎない。

 欧米では全地球測位システム(GPS)による監視も採用されているが、国民の体感不安を急に強めたであろう、東京の秋葉原や八王子で起きた無差別の連続殺傷事件などには有用とは思われない。これらの事件の加害者は、受刑歴どころか前科もないのである。

 病気や障害のある人、社会的なハンディキャップを抱えた人を排除するのではなく、我々のもとに受け入れようとする「ソーシャル・インクルージョン(社会的包摂)」という考えがある。私が専門としている学校臨床でいえば、不登校や発達障害のある子どもの学校への受け入れがその例だ。非行・犯罪臨床では、少年院や刑務所などを出た人を「施設帰り」と烙印(らくいん)を押すのではなく、社会復帰をサポートしていこうとするものである。

 このような考え方が実践されるか否かは、「社会のまなざし」が生命線となる。大学の教員会議で反対署名簿が回覧されるなど、今回の反対運動を身近に経験して、非行・犯罪臨床家として社会への働きかけの努力不足を痛感した。

 地域の安全を守るために、市民の立場で非行少年や犯罪者の立ち直りに尽力している人たちがいる。保護司は、仮出獄者とも自宅で面接を行っているが、その経験を伝えるシンポジウムなどを企画したいと思う。本連載でも、犯罪臨床に関する正確な情報と知見を伝えると共に、ソーシャル・インクルージョンの重要性を訴えていきたい。
(福島大学大学院教授:生島 浩)

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