「 中国の陰謀、カナダの反日教育 」
『週刊新潮』 ’06年6月29日号
日本ルネッサンス 第220回
カナダ・トロント在住の日本人の方から憂慮すべき手紙を受け取った。カナダで反日教育が進行中で、背後に中国共産党の情報宣伝活動があるというのだ。寄せられた情報はざっと以下のとおりだ。
「第二次大戦アジア史保存連盟」(通称ALPHA)という団体が企画して、カナダのオンタリオ州の歴史、社会科の教員24名を2004年夏、上海、南京等各都市に送り込み、研修を行った。費用はALPHAが負担、現地での研修及び旅行日程の概要もALPHAが決定した。
研修に参加した教員たちは、カナダに戻った時点で、オンタリオ州教育省の教育課程担当部に手紙を書き、第二次大戦に関する歴史のなかで、アジアにおける出来事、つまり、“中国における日本軍の暴虐”を全く教えてこなかった従来の歴史教育を是正するよう、要求した。ALPHAは05年7月にも、第2次研修視察団、20名を中国に送り込んだ。
そしてオンタリオ州教育省に変化が生じた。05年版の10年生(高校1年生)の教育課程に、第二次大戦における重要な出来事として、ナチスのユダヤ人大虐殺と並んで、日本軍による“南京大虐殺”が、はじめて加えられたというのだ。
情報を寄せてくれた邦人の方は次のように指摘している。オンタリオ州にはカナダの総人口3,200万人の3分の1が在住しており、同州で反日教育が確立されれば、反日の価値観は全カナダに広がっていく。自分たちの力だけでは対抗出来ないと。
“南京大虐殺”が虚構であることは北村稔氏の「『南京事件』の探究」(文藝春秋)などでも明らかだ。にもかかわらず、これを真実として世界に広める反日情報戦略を日本は見過ごすわけにはいかない。そのような反日活動団体、ALPHAとは一体どんな団体か。
拡大する反日情報工作
『文藝春秋』の今年6月号によると、ALPHAの名前がはっきりと浮上したのは98年だ。アイリス・チャン氏の『ザ・レイプ・オブ・ナンキン』の宣伝及び販売に協力した中国系団体で、「世界抗日戦争史実維護連合会」の傘下団体である。
右の連合会は「中国国営の新華社通信とつながるウェブサイトを持ち、中国政府からの直接の支持を得て、中国の主要都市で種々の集会を開いている」と報じられている。
つまり、同連合会は、虚構を素材として日本非難を徹底するのが目的の中国政府直轄の団体で、傘下のALPHAも同様ということになる。
カナダ人はカナダの大自然を映し出すかのようにまっすぐで素朴な人々が多い。その国で、中国共産党の意向を受け、日本を貶めることを使命とするALPHAのような団体が、潤沢な資金で悪意に満ちた反日情報戦を実践すれば絶大な効果を生み出すことだろう。現にオンタリオ州教育省は、いとも容易に“南京大虐殺”をナチスのホロコーストと並べて教える方針を取り始めた。
このような動きはカナダのみに限らない。アジアでもアフリカでも、世界中で進行中だ。日本政府、とりわけ外務省は、こうした実態にどう対処しているのか。日本国の総力をあげて中国の反日情報宣伝戦に対抗しなければならないにもかかわらず、そのような認識は極めて稀薄である。
日本がすべきことは、南京大虐殺は実は存在しなかったという個々の歴史事実の説明と共に、より大きな枠組みで中国共産党の真の姿を世界に知らしめることだ。その枠組みのなかで、“南京大虐殺”や、江沢民時代以来言い始めた“日中戦争での日本軍による犠牲者は3,500万人”などの説は事実ではなく、むしろ、国民の命を犠牲にすることなど気にもかけないという中国共産党自らの行動原理を基準にして考え出した虚構だということを、世界各国に周知徹底させていくべきなのだ。
中国共産党こそ人民の敵
中国で04年1月に出版され、同年3月に早くも発売禁止処分にされた『中国農民調査』(陳桂棣、春桃著、文藝春秋)と『マオ 誰も知らなかった毛沢東』(ユン・チアン、ジョン・ハリデイ著、講談社)を併せ読めば、国民を1,000万人単位で殺害してきたのは中国共産党に他ならないこと、また、その価値観は現在も引きつがれ、農民や法輪功の学習者らが命を奪われ弾圧され続けていることがよくわかる。
『中国農民調査』は00年10月から約3年間のフィールド調査に基づいて書かれた。登場人物は全て実名、農民の置かれている凄まじい実態が描かれている。
13億人の内の9億人を占める農民は皆農村戸籍を与えられ、都市戸籍を持つ都市住民のために働く二等国民と位置づけられているのだ。農民には、都市住民に供される国費による教育も医療も福祉もない。代わりに各種の重税が課せられる。移住の自由もなく、現代の奴隷或いは“食糧生産手段”とでも言うべき極悪の状況が続いている。
毛沢東と中国共産党が死なせてきた農民や国民を、ユン・チアン氏は、7,000万人と記述した。毛沢東は農民に「強制労働収容所と同じ」やり方で「生きていくのに必要最小限の食糧を残してあとはすべて取り上げる」方針を実施、飢えに苦しむ農民は、「サツマイモの葉を食べればよい」「一年じゅう食べる物がないわけではなかろう──ほんの6ヵ月……あるいは4ヵ月程度のことだ」と語ったと書いている。
さらに1958年から61年まで続いた毛沢東の大躍進政策で、少なくとも3,800万人の農民が餓死或いは過労死したことを、当時、党ナンバー2だった劉少奇が確認している。
農民や国民の大量死に直面しても、毛沢東は動ずることなく、言い放ったそうだ。「人が死んだときには慶祝会を開くべきである」「われわれは弁証法的思考を信じるわけだから、死を歓迎しないということはありえない」と。58年12月9日には中国共産党最高幹部を前に「死はけっこうなことだ。土地が肥える」とも発表した。毛の言葉にしたがって農民は死体を埋葬した上に作物を植えるよう命じられ、実践したという。
毛沢東の一生と中国共産党の歴史はこの種の気分の悪くなる事実に満ちている。毛沢東こそ、ヒトラースターリンと共に20世紀が生んだ三悪人の一人だ。毛沢東と歩んできた中国共産党こそ9億農民の敵、人民の敵、国民の敵ではないのか。
毛沢東の死から30年、日本の国会に相当する全国人民代表大会では、02年以来毎回、農業、農村、農民を表わす「三農問題」が取りあげられてきたが、基本的変化はない。
日本政府は国際社会に中国共産党のこのような体質を、その歴史事実と共に過不足なく伝えていくことだ。日本の立場からの情報戦略を展開しなければ、日本は知らぬ間に、中国によって足を掬われ、思わぬ敗北を喫することになる。
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