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「安心」それとも「分断」?――“要塞住宅”に賛否
「ゲーテッド(要塞)コミュニティ」「ゲーテッドタウン」と呼ばれる大規模開発が増えてきた。ゲーテッドタウンの敷地内には居住者と招待者以外は入れないため「安心」「安全」と思われがちだが、逆に危険性が高まるという指摘もあるようだ。
[産経新聞]
安全・安心な住まいを求める声が高まる中で「ゲーテッド(閉鎖型=要塞(ようさい)の)コミュニティ」「ゲーテッドタウン」と呼ばれる大規模開発が増えてきた。敷地内には居住者と招待者以外は入れない。「子供を安心して遊ばせられる」という肯定意見の一方、周辺住民からは「地域が分断される」などの不満の声も上がっている。
セキュリティーを重視し、ゲートを設けて敷地(区画)内の出入りを制限する地域づくりは、治安が悪化した欧米で1980年代ごろから増え始めた。住宅地の周囲をぐるりと高さ2メートル以上の壁や柵で囲い、入り口を数カ所に限定し、出入りを制限するのが特徴だ。
閑静な住宅街が多い東京都世田谷区。青山学院大学の跡地(約4万9000平方メートル)に建設された積水ハウスなどの大規模マンション「東京テラス」(11棟計1036戸)は、大学の塀の形をほぼそのまま生かした。外門から共用施設に入るのにオートロック式のドア、さらにマンション棟に入るのにもオートロックの玄関。公道に面した外門は午後11時に閉鎖。その後、帰宅する住人は各戸の住戸キーで解錠して入る。2歳の女児を連れた女性は「広く緑が多い。外から入ってくる人がいないので、子供を遊ばせても安心」と笑顔で話す。
セコムホームライフと平和不動産は、同区内の公社跡地約1万5500平方メートルに「グローリオ蘆花公園」(9棟計363戸)を建設中だ。5〜12階建ての独立した建物を配置。外周の壁にはセンサーを通し、敷地内には防犯カメラ約120台を設置するなど、セコムの最新セキュリティーシステムを完備する。
三井不動産レジデンシャルが東京都渋谷区広尾の病院所有地(2万9000平方メートル)に建設中なのは、ゲートセキュリティー型マンション「広尾ガーデンフォレスト」(8棟670戸)。外門では住人以外の訪問者にガードマンが訪問の真偽を確認。本物の訪問者には当日だけ有効のキーを渡すシステムだ。
こうしたセキュリティー重視の要塞型マンションや戸建て団地開発に対し、周辺住民は複雑だ。「高級感がある」という声もあるが、グローリオ蘆花公園の周辺住民は「芦花住宅跡地周辺の環境を守る会」を結成し、建設に反対している。会員は「公社時代は自由に出入りできたし、通り抜けもできた。子供を遊ばせる近所の人もいた」と自宅横に“閉鎖空間”が現れることに反発をあらわにする。
ゲーテッドタウンへの反対運動が数件ある世田谷区の中杉和明・都市計画課長は「新住民と旧住民を隔て、地域を分断するような建物が増えるのは好ましくはないが、規制する法律がないので、開発者に地元住民との話し合いを促すことしかできない」と打ち明ける。
内も外も安全に
立正大学の小宮信夫教授(犯罪社会学)の話「犯罪は入りやすく見えにくい場所に起こる。ゲーテッドタウンは内部の安全性が一時的に高まるが、塀の外周部は逆に人の目が行き届かなくなり、危険性が高まる。内部の住人も犯罪性を呼び覚まされることがあるので、住人同士いつもふれ合い“見える”関係になることが必要だ。内部で育った子供は外部の子に比べ、防衛能力の開発を怠りがちで、外に出たときに犯罪被害に遭いやすい。タウン内で教育や通院、買い物など全生活が完結することはあり得ず、外部の人を中に入れるか、自分たちが外に出るかしないと生活は成り立たない。結局、内も外も安全な場所にする以外に真の安全は成り立たない」
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