1923年の9月1日に起きた関東大震災の被害者を悼み、立春から数えて210日の9月1日ごろに日本列島を度々襲う台風への警戒を確認する。自然災害への覚悟と備えを共有すべく、48年前に9月1日が防災の日と定められた。
しかし今、日本社会における自然災害のリスクと被災の構造は大きく変化している。210日を目前にした先週末、各地に大きな水の害をもたらしたのは台風ではない。ゲリラ豪雨とも呼ばれる、場所と時間を特定しにくい集中豪雨である。
梅雨明け直前の西南日本に毎年、バケツをひっくり返したような豪雨をもたらすのが、寒気の縁にある前線に南方の熱い湿った大気が舌のようにぬるりと大量に流れ込む現象である。それとよく似た状況が、近ごろは季節違いの夏の終わりに列島全域を覆い、大雨を降らす。都市化した人口密集地域にも出没する。
短時間に大量の雨が降り、地下にしみこまずに下水と川に集中すると、河川は増水しあふれる。地下にバックアップ用の巨大な水路を設ける試みも、1時間当たり100ミリを超すような豪雨を抑え込むのは難しい。
雨水を地下に浸透させる透水性舗装や、公園や校庭を遊水池として利用する案もある。ダムや巨大水路など力ずくの策のほか、柔軟な発想で水を逃がし、なだめる策なしに、ゲリラ豪雨や地球温暖化で巨大化する台風にはとても対応しきれない。
関東大震災では死者の多くが、巨大化した火災による炎の渦に巻き込まれた。一方、阪神大震災では、犠牲者の8割以上が、建物内での圧死である。皮肉なことに、台風に備えた重い屋根がその一因だともいわれる。中国の四川大地震でも、倒壊した建造物が多くの人命を奪った。
6月の岩手・宮城内陸地震、7月の岩手県北部での地震、ともに建物の倒壊が少ないのは、地震動の周期に加えて、積雪に備えて家の屋根が軽いことも一因とされる。
建物が凶器に変わらないよう、耐震強度を上げるのが地震防災の基本である。時間と場所と規模を特定する直前予知は困難な以上、学校、病院、住宅の耐震化が急務だ。そのための制度拡充は、バラマキよりずっと効果的な景気刺激策である。