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社説:社会保障カード 時間かかっても合意形成を

 年金手帳や医療・介護保険証を1枚のカードで管理する、いわゆる「社会保障カード」の議論が本格化してきた。先週末に開かれた厚生労働省の有識者検討会では、同省が示した中間の論点整理案に対し異論が噴き出し合意の難しさを浮き彫りにした。

 厚労省は検討会の議論を整理して今年度末までに基本計画をまとめる予定だが、国民生活に大きな影響を与えるだけに、情報をすべて公開して国民の声を聴いて進めるべきだ。拙速に結論を出すべきではない。

 個人情報をカードで一元管理することに対しては国民の拒否反応が依然として強い。まずは、公的機関による個人情報管理に対する根深い不信感をぬぐい去ることから始めなければならない。

 中間整理案では、社会保障カードの利点として年金記録、医療費などの情報が自宅からオンラインで確認、入手できることなどを挙げている。これによって年金の記録漏れや手続き漏れ、虚偽報告などを防ぐことができるという。

 確かに、情報を1枚のカードで管理することで日常生活での利便性が高まるなど、メリットはある。しかし同時に、情報が漏れた場合のリスクも高くなる。社会保障カードの利点は認めるとしても、カード導入には利便性とリスクが背中合わせになっていることを忘れてはならない。

 最大の課題はプライバシーの侵害や情報の一元管理に対する国民の不安を解消する仕組み作りができるかどうかという点だ。中間整理案によれば、個人に配布される社会保障カードには年金情報などを収録しない。本人を確認する最低限の情報だけとし、情報を入手するには、まず中継データベースにアクセスし、そこから年金や医療など個別の情報を得る仕組みとする。これによって情報が流出するリスクを極力回避することを目指している。

 厚労省はカード導入のためのシステム構築など、どの程度の費用が必要になるかの試算は示していない。今年度内にまとめる基本計画に沿って算出するというが、できるだけ早く推計を示すべきだ。費用対効果も重要なポイントであり、それが分からなければ、議論は深まらない。

 中間整理案では社会保障カードについて、現在、市町村で交付されている住民基本台帳カード(住基カード)や金融機関などが発行するICカードの活用などが検討項目として列挙された。その上で「住基カードの活用が費用対効果を考えると優れた仕組み」とした。しかし、住基カードの評判は芳しくなく、あまり普及もしていない。単に費用負担が少ないという理由だけで飛びつくのは賛成できない。

 住基カード活用の功罪を精査し費用面での検討も行い、国民に丁寧に説明して合意を得る必要がある。

毎日新聞 2008年9月1日 東京朝刊

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