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通貨圏なき「円」の限界

2008/08/31 09:42

 

【国際政治経済学入門74回】通貨圏なき「円」の限界

google_ad_section_start  通貨とは単なるモノ・サービスの交換手段ではない。他国に比べたその国の豊かさを左右する。富の格差はその通貨の通用度の差から生じる。

世界を貿易の決済通貨別に色分けると、ドル圏とユーロ圏に大別される。円は時折、ドル、ユーロと並ぶ国際通貨だと言われるが、周辺国・地域に貿易決済圏はない。日本はむしろ中国など他のアジアと同じくドル決済圏に所属する。中南米、さらにアラブなど産油国の大半もドル圏である。ユーロ圏は独仏などユーロ加盟国と周辺のEU(欧州連合)加盟国及びEU加盟をめざす国を含む。ロシアはドル、ユーロの混合型で、ルーブルの決済圏は存在しない。

世界の金融市場はドルが支配している。ユーロ建て債券の発行は盛んだが、証券、商品、さらに先物など金融派生商品(デリバティブ)などドル建ての市場は多様で層も厚い。米国の低所得者向け高金利型住宅ローン(サブプライムローン)危機が昨年8月に勃発したとき、欧州の金融市場ではドル資金が不足し、米連邦準備制度理事会FRB)が緊急融通した。欧州の金融機関がドル建ての金融商品を主に取引しているからだ。

■米独は賃上げのゆとり
自国通貨による決済圏を持たざる日本と、持てる米、ドイツの差は歴然としている。グラフ(左)は、日米独の賃金の推移である。米国はドル高、ドル安とは無関係に一貫して賃金を上げている。ドイツはユーロ高で産業の競争力が不利になっているにもかかわらず、賃上げを続けている。日本だけが賃金を据え置いている。自国の通貨でビジネスができれば、企業の製品価格は圏内では一律でよい。進出先の賃金が安い国でその製品をつくれば利益は膨らみ、母国で賃上げするゆとりがうまれる。


  日本が日本の賃金水準の十数分の1以下の中国で製造・販売してその価格を円建てで日本国内と同じにすれば企業収益と本国の賃金はどうなるだろうか。もちろ ん、現地企業など同業者との競争が激しければ、値下げするしかないが、それでは同一製品なのに価格が違い、一物一価の法則を企業自ら壊し、混乱しよう。

少なくても、米国ドイツも自国で値上げすれば海外でもただちに値上げし、国内の物価上昇などに応じて賃上げしている。ユーロ高の欧州は日本でも乗用車など製品値上げを繰り返してきたことからも明らかだ。

■悪循環を生む円安頼み
賃金水準が上がらない日本では、さらにパートや派遣・請負いと正社員との賃金格差が深刻な社会問題を引き起している。

個人消費は抑えられ、企業はますます外需に頼らざるをえない。ところがサブプライム危機以降は米国の消費が冷え込み、それが世界に波及してきた。中国インドな ど新興国は対米輸出が減り、新興国に設備や部品を輸出してきた日本の景気も後退してきた。輸出競争はますます激しくなるので、円安に頼るしかない。する と、石油や鉄鉱石、穀物など原材料の円建て価格はさらに上昇する。輸出価格は上げられない、輸入コストは上昇して資源国に富が移転する。ツケを払うのは消 費者で内需は一層落ち込むという悪循環が生じている。

もうひとつのグラフ(右)は、日独の輸出、輸入の単価を比較したものだ。ユーロ圏のドイツは輸入コストの上昇と並行して輸出単価を引き上げている。ドイツは国内から外に所得を流出させていない。

基軸通貨ドルを持つ米国は世界の金融不安、景気後退の震源地なのだが、意外とゆとりがある。巨額の財政赤字にもかかわらず、共和、民主両党とも景気刺激のため財政の大判振る舞い策を競う。いくらドル安になっても、世界は原油や製品を買うためにドルを必要とするので、ドルは底なしに暴落する可能性がないからだ。

こうみると、日本にとって周辺のアジアと共通の通貨圏を持つことが、死活問題であることがわかる。だが、円による決済圏は韓国や中国の反発が予想され、事実上不可能だ。残る選択肢はユーロに習った東アジア共通通貨の実現だが、それも一部専門家の間での構想にとどまっている。
(特別記者・編集委員 田村秀男/SANKEI EXPRESS)8/30

カテゴリ: マネー・経済  > 金融    フォルダ: 田村秀男の国際政治経済学入門

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