地域の特産物が危機に瀕(ひん)していることに、どうして気づかなかったのか―。そんな思いを強くしている。
本紙倉敷市民版、倉敷総社圏版で毎週日曜日に連載中の「備中食聞録」。取材を進めているうちに、名物・特産物として知られた岡山の農産品や料理が次々と消えつつあることに気づかされた。
瀬戸内海の干潟を失い、減少の一途のシラウオ。後継者難で農家がわずかとなり、半世紀の栽培の歴史に幕を下ろそうとする総社市山手地区のセロリ。河川改修の影響で、稚魚の養殖・放流をやめれば種を保てなくなる高梁川のアユ…。
連載準備のために目を通した郷土料理本にあるメニューの多くは、地域の料理店や家庭から姿を消している。総社市の有志が引き継ぎ、消滅を免れた高梁市成羽町の豆腐飯は、取材までこぎつけた数少ない例だ。
その要因は複雑だ。まず、環境悪化による資源の減少がある。そして、農業・漁業従事者の高齢化と後継者難。さらに、世界中の食品が食卓をにぎわす流通の変化と、便利さを追求する消費者の食生活の変化が拍車を掛ける。食の川上(資源)から川下(消費)まで、郷土食にとっての“負の連鎖”の増幅は止まらない。
産地や消費期限の偽装、輸入品の安全など「食の危機」が近年、社会問題としてクローズアップされているが、身近に忍び寄る海の幸、山の幸の危機も深刻だ。食卓は長い歳月をかけて蓄積された文化。それを残したいと願う地域の人たちの思いを伝えていければと思っている。
(倉敷支社・高見幸義)