政府、与党は、物価上昇や原油高などに対処するための総合経済対策を決定した。景気後退色が強まる中、財政規律を維持しながらどんな有効な政策を打ち出せるかが焦点だった。メニューを見る限り、景気刺激効果は不透明で、衆院選を意識した「ばらまき路線」回帰にかじを切ったと言わざるを得ない。
対策の名称は「安心実現のための緊急総合対策」で、事業規模は十一兆七千億円に上る。うち一兆八千億円を秋の補正予算案に計上する。また、家計への緊急支援として所得・住民税の定額減税を単年度限りの「特別減税」として二〇〇八年度内に実施することを明記した。
対策は、原油や食料の価格高騰による負担軽減が主な狙いだ。中小企業の資金繰り支援を柱に、高速道路料金の値下げ、非正規労働者の雇用安定、農地の有効利用などによる国内農業の振興、漁業者向けの燃油高対策、省エネ推進、輸入小麦の値上げ幅圧縮などを盛り込んだ。
全体に目先の痛みを和らげる応急処置的な対策が多く、景気後退に歯止めをかけるには力不足といえまいか。景気は、米サブプライム住宅ローン問題に端を発した世界的な金融不安、投機マネーによる商品や穀物相場の値上がりといった外部要因で悪化している側面は否めない。しかし、日本経済の成長力を高めるための中長期的な構造改革や環境整備も必要だろう。
柱の一つである定額減税は、納税額にかかわらず、一定額を減税するもので、低所得者層への恩恵が大きいとされる。一九九八年にも実施されたが、当時の減税が景気浮揚につながったとはいえない。典型的なばらまき政策といえよう。今回は衆院選向けの目玉政策にしたい公明党が強く主張していた。自民党や政府には慎重論も多かったが、公明党の攻勢に押し切られた格好だ。
減税の規模、実施方法、財源など肝心の中身は年末に向けた税制改正作業の中で検討するという。福田康夫首相は、補正予算については「赤字国債の発行は行わない」との方針を表明したが、定額減税の財源はどう確保するつもりなのか。景気後退で税収不足が予想される中、国債の増発懸念はぬぐい切れない。財政健全化路線が揺らぐのではないか。
増え続ける社会保障費を支える財源のめども立たない中、一時しのぎの負担緩和だけでは真の安心にはつながるまい。社会保障制度の持続に国民の不安が高まれば、さらに消費が萎縮(いしゅく)し、景気の足を引っ張る悪循環に陥る恐れも出てこよう。
米大統領選で、民主党は大統領候補にオバマ上院議員、副大統領候補にバイデン上院議員を党大会でそれぞれ正式に指名した。主要政党として初の黒人大統領候補を選び、八年ぶりの政権奪回を目指す。
オバマ氏は米政界では異色の存在といわれる。ケニア人の父と白人の母の間に生まれ、母親の再婚先のインドネシアやハワイで育った。
こんな人物が大統領候補に選ばれるとは、少し前まで多くの人が想像できなかっただろう。人種的偏見の残る米国で初の黒人大統領になり歴史を塗り替えるのか、世界の関心が集まる。
オバマ氏は党大会での指名受諾演説で、ブッシュ政権時代のイラク戦争や景気低迷は「もうたくさんだ」と批判した上で「今こそ、われわれが米国を変革する時だ」と持論の「変革」の重要性を強調した。
「変革」の中身として、イラク戦争の終結やアフガニスタンでのテロとの戦いの完遂を宣言した。イランの核兵器保有を阻むため「直接外交」を行う考えも示した。今後はより説得力のある具体策が求められよう。
近く共和党の大統領候補に指名される予定のマケイン上院議員との戦いは、接戦模様になってきた。イラク戦争などブッシュ政権の「負の遺産」を受け継ぐマケイン氏が圧倒的に不利と当初はみられていた。だが、民主党の予備選でヒラリー・クリントン上院議員とオバマ氏の激しい戦いが党内に亀裂を生み、情勢を大きく変えた。
オバマ氏がクリントン支持層をどこまで味方につけられるか力量が問われる。景気対策も重要なポイントだ。米国経済の動向は世界への影響力が大きいだけに、国際経済を見据えた実効性のある政策を打ち出せるかどうかにも注目したい。
(2008年8月31日掲載)