金杉文夫のリョーガン・マーケット(竜頷市場)

一言メッセージ :アジアの急所、日本の森羅万象を取り上げます

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医療関連

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日本の産婦人科を震撼させた大野病院事件。

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 ある意味、日本の医療界全体が注目していた判決が今日、福島地裁で下されました。
 
 一人の母親が出産をする際に出血多量で死亡したのですが、その死因が「事故」なのか、それとも「事件」によるものだったのかの判断を司法の場に求めた裁判だったのです。



(産経新聞 8月20日10時23分配信)
『福島県大熊町の県立大野病院で平成16年、帝王切開手術を受けた女性=当時(29)=が死亡した事件で、業務上過失致死と医師法(異状死の届け出義務)違反の罪に問われた産婦人科医、加藤克彦被告(40)の判決公判が20日、福島地裁で行われ、鈴木信行裁判長は無罪(求刑禁固1年、罰金10万円)を言い渡した。判決言い渡しは午後3時ごろまでに終わる見込み。

 手術時の判断をめぐり、執刀医の刑事責任が問われたこの事件の公判では、「過失は明白」とする検察側と、「手術は適切だった」とする弁護側が全面対立。医療行為は適切だったのか▽危険は予見できなかったのか▽医師法違反に該当するのか−などが争われていた。
 執刀医の逮捕・起訴については、「診療が萎縮(いしゅく)する」として、日本産科婦人科学会をはじめ多くの医療関係者が反発、第三者の立場で医療死亡事故を究明する“医療版事故調”設置の議論を加速させる要因にもなるなど、国の医療政策にも大きな影響を与えた。
 論告などによると、加藤被告は平成16年12月17日、子宮と胎盤が異常な形で癒着した「癒着胎盤」の症例だった女性の帝王切開手術を執刀。子供は無事に生まれたが、女性は子宮から胎盤をはがす際に大量出血し、死亡した。また女性の死亡を24時間以内に警察署に届けなかった。

 検察側は、「剥離(はくり)を中止して子宮を摘出すべきだったのに、無理に続けて失血死させており、過失は明白」と主張。これに対し、弁護側は「剥離を始めれば、完了させて子宮の収縮による止血作用を期待するのが産科医の常識であり、臨床現場では、検察側が主張するような措置を取った例はない」として、検察側に反論していた。
 また、検察側は「事故後、自分の過失で失血死させた可能性を被告自身が述べており、異状死と認識していたことは明らか」として、異状死を届けなかった医師法違反を指摘。一方、弁護側は「被告は異状死と認識していなかったうえ、上司と相談して届け出なくていいと指示されていた」と主張していた』


 この事件がマスコミで注目されたのは、日本の危機的な医療状況が深く関係しています。

 赤ちゃんを妊娠して出産を準備したお母さんやお父さんならば良く理解できるでしょうが、東京などの大都会をはじめ、病院数の少ない地方に至るまで今の日本には赤ちゃんを出産するための病院が減少を続けています。

 しかも出産が100%安全だと考える患者側は“出産は危険だ”という認識をほとんど持たないため、不可抗力の事故、あるいは先天的に新生児が何らかの異常があった場合でも、訴訟を起こすケースが激増している今風の問題が生じているのです。

 その為、今回の事件でも日本産婦人科学会や多くの医療従事者が「一生懸命、医療に当たる医師の裁量を無視し、現場を知らない検察サイドが無闇に医師を逮捕するなど、日本中の医師がやる気を無くし、萎縮し、産婦人科医を辞める者が続出する。今回は医療にとって深刻な事態だ」という主張を展開して被告を支持する姿勢を示しました。

 確かに日本の医療現場が苛酷な状況にあり、産婦人科医にとって今回の裁判が看過できない深刻なものであったことは間違いありません。

 しかし私は上記記事には書かれていない点にもっと注目すべきだと思います。

 それは29歳の母親が出血性ショック死で亡くなったのが2004年12月17日のことであり、加藤医師が逮捕されたのが2006年2月18日だったという点です。

 その間、2005年1月26日には福島県による事実公表があり、3月30日には「医療事故調査委員会」が執刀医にミスがあったとする調査結果を公表し、病院側も「医師のミス」を認めて家族に謝罪したと発表しているのです。

 その経過を踏まえて6月16日には福島県が加藤医師に対して減給処分を下していますが、それから8ヶ月後に加藤医師の逮捕という事態に至ります。

 実は原告側の父親は取材に対し、逮捕に至るまで何度も病院側の説明を求め、加藤医師の説明を求めたと語っています。
 ところが病院側は誠実な対応を取らず、加藤医師も「口べた」という利用で患者家族への説明責任を果たして来なかったというのです。

 患者側はごくごく普通の市民です。

 一方の被告側は病院という組織です。しかも日本の産婦人科学会という大組織も支持に回っているのです。
 
 そんな状況では説明に納得できない家族が警察に頼るのも無理ないことでしょう。
 
 また、日本産婦人科学会やマスコミの取り上げるポイントの中に、「萎縮医療」という言葉が頻繁に出てくるのですが、この言葉も私は気になります。

 そもそも医療過誤の事件であれば、「過誤」のあるなしを法的に争えばいいことであり、且つ病院側や医師が訴訟保険に入り、自分の信念に基づく医療行為をすればいいわけです。
 それなのに、今回の裁判で有罪になったら「日本の医療が萎縮する」というような言い回しは、患者を人質に取ったある種の脅しととれなくもありません。
 医師のプライドも疑いたくなります。

 そして最後の問題は、何故、警察が医師の逮捕に踏みこんだかと言うことです。

 そこに、警察の手柄をあげるという意識は無かったか?
 逮捕することで、複雑な医療事故の真相を明らかにすることが出来ると思っていたのか?
 本当に患者側の利益を考えて捜査に当たったのか?

 その点に疑問が残ります。
 
 但し、この事件をきっかけにして医療事故の真相解決や保障の問題をスムーズに調整する仕組みを構築しようという動きが出てきましたので、不幸な事故ではありますが、日本全国の新しくお母さんになる人や丘ちゃんのためにも、キチッとした後始末をしてほしいと思います。

 今回の事件を通し、赤ちゃんを産む患者側は「出産は命がけの危険な大仕事なんだ」という事をもっと認識すべきですし、病院や医師側は「患者の立場に立った説明責任を果たす」事を肝に銘ずべきだと思います。

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助産師をしているnonといいます。
ときどき拝見させていただいてます。
翔くんと同じ年で翔くんに日々癒されて仕事をしています。
最後の3行、非常に共感します。
今の日本は、100%といっていいほどお産は安全なものという認識がもたれていると思います。もしくは、命がけと思っていても「私には異常は起こらない」と人事に感じてるのかもしれません。どんなに問題なく経過していても、出産は常に異常と隣り合わせということ知ってもらいたいと思います。
また、病院側は、素人である患者がちゃんと納得できるように説明を行わなければなりません。手術前にどんな危険・合併症があるのか、出産時の異常時にはどのように対応するのか、わかりやすく説明する義務があります。誠意を持って患者と接する、患者が納得できるように話をし、話を聞く。患者との信頼関係の築き方、患者の立場に立った接遇を医大で学んできていただきたいと思う日々です。 削除

2008/8/20(水) 午後 7:26 [ non ]

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貴重な意見を有り難うございます。最近の医師が大変な状況にあることは間違いないと思いますが、それ以上に苛酷な状況に置かれているのが看護師さんや助産師さん達だと思っています。
小泉元総理が「聖域無き構造改革」などと頓珍漢な合い言葉で教育や医療に無謀なメスを入れた結果、今のように人命よりも道路を優先する日本になっています。
どんなに財政が大変でも人の命を救う病院や医師が
その仕事を辞めざるを得ないなんて、絶対にあってはなりません。
幾らでも節約するところはあり、真っ先に議員の数を減らすべきなのに・・。
結局、今の医療崩壊を救うには選挙が最も早い近道かもしれませんね。

2008/8/21(木) 午前 3:28 [ yuushi2011 ]

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どんなに完璧な医療行為をしても、人間死ぬときは死にます。それが医療の限界。

ミスがなくても結果が悪ければ逮捕。そんな仕事を誰が引き受けるのでしょうか。医師だって人間ですし、家族や生活があります。少しでもリスクを避けるのは当然でしょう。

それとも医師だけは聖人であれと。
自分を棚に上げて批判でもするのでしょうか。
それならば、あなたが医師になればいい。

2008/8/21(木) 午前 8:37 [ pun*t_*go ]

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nonさんの御意見に共感します。
失敗や、結果が問題なのではなく、依頼者への説明と理解が
最も大切なのではないかと思います。
毎回毎回同じ説明が、イヤになるのも理解できます。
気付かぬうちに省略してしまっていて、
依頼者の理解が不十分であるということもあります。
理解が不十分なのは、依頼者の情報不足も理由の一つだと思います。
説明を聞いても、1度では理解できず、また、何がわからないか、何を質問していいかも、わからないということもよくあります。
日本の依頼者いわゆる患者さんやその家族も、任せきりという
スタンスから、ある程度は情報を得て、医療サービスを受ける
ことも、必要なのかもしれません。
そうすれば、医師からの説明も理解しやすいですし、質問も
的を得て行え、お互いに納得した治療が行えるかもしれません。

2008/8/21(木) 午後 1:43 [ rikoriko ]

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そもそも医療事故調査は、事後的に不幸な結果に終わった症例を検証し、患者や家族へ補償に資したり、以後の臨床経験とするためのものです。そのためカンファレンスと同様に重箱の隅つつきのように穿り返していきます。また遺族への保険適用のために多少色をつけることもよくやられます。刑事裁判での利用も前提としていない演出過剰なものです。言ってみれば結婚式での新郎新婦の紹介ビデオのように、良いことづくめな内容の逆バージョン。
ところが検察はこれを第一のきっかけとしたといわれています。さらに当時の検察担当の片岡氏は他に決定的な証拠がある事を公言していましたので、それ以外に何かがあったはずなのですが、裁判が終わっても結局それが何かは分かりませんでした。どうも国家試験用の対策本である「STEP産婦人科」内の記述のことか、剥離にクーパーを使ったことのどちらかではと推定されていますが、いずれも裁判では一蹴されています。さらには検察側唯一の専門家的証人は実は専門外の人で、その人にすら信頼に値する専門家を挙げてもらうと弁護側の証人を挙げられてしまいましたし。やはり最初から無理スジであったわけなのでしょう。

2008/8/23(土) 午前 0:30 [ pop*sy* ]

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でもう一点。産婦人科学会に限らず数多くの団体・関係者がこれは有り得ないと逮捕の時点で非難もされていたわけですが、それは普通の医療としか思えないことをやっているにも関わらず逮捕されて起訴されてしまったからです。だからそれでは「日本の医療が萎縮する」と。これは脅しですか?では「普通の医療をしても結果が悪ければ逮捕する」というのは脅しでは無いのですか?
何となくその辺を歩いている人を射殺しましたなんて警官があちこちにいたらおちおち道を歩けません。そういう警官を放置していたら経済が麻痺します。これって脅しですか?私はそういう所には絶対に近寄らないし、配達に行けと言われても断ります。それで経済が麻痺しようが知ったことではありません。仕事に対するプライドが無いのかとか言われても、普通の仕事をしても逮捕される確率が五分五分ってそれって仕事ですか? ロシアンルーレットでしょう。
まぁこれがアメリカなら銃には銃で返せますから、言い掛かりでも八つ当たり訴訟でも何でもかかって来いなんて体制はその気になれば幾らでも作れるでしょうが、幸いなことに日本ではまだまだそんな時代ではありません。

2008/8/23(土) 午前 0:35 [ pop*sy* ]

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>被告側は病院という組織です。しかも日本の産婦人科学会という大組織も支持に回って

この認識は間違っています。県と病院は、ただ一人産婦人科医に責任を押し付けようと 事実に反する報告書を作成し、結果的に検察に産婦人科医を売ったのです。
http://www.yomiuri.co.jp/e-japan/fukushima/news/20080821-OYT8T00142.htm (読売福島版)

産婦人科医にとって唯一の味方は、「これで逮捕されるのなら、高度な治療は恐ろしくてできない!」と感じた全国のあらゆる診療科の医師たちです。それに呼応して動いたのが、産婦人科学会をはじめとした全国の各診療科の学会や地域医師会だったのです。 削除

2008/8/23(土) 午後 1:35 [ 崩壊を眺めるもの ]

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最近、萎縮診療を唱える医療側を批判すると、各サイトで炎上しているようです。
医師は頭が良いですから、自己主張は上手ですし、争う相手の欠点を突くことも上手です。
しかし、本ブログは常に弱者の側に立つことを信条としているので、患者が読んで悲しむようなコメントは削除します。
但し、本ブログ意見への反論は出来る限り掲載したままでいようと思いますが、私も狭量ですから押しつけがましい主張の貼り付けは独断と偏見で削除しますので悪しからず。

崩壊を眺めるものさんのパート2は削除しました。

2008/8/23(土) 午後 6:13 [ yuushi2011 ]

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> それなのに、今回の裁判で有罪になったら「日本の医療が萎縮する」というような
> 言い回しは、患者を人質に取ったある種の脅しととれなくもありません。

今回と同じ事例で、大病院で事前の準備もスタッフも十分であったにも関わらず患者が死亡したというのがあったんですよ。現在の医療レベルではそれくらい難しいということです。それじゃ最初から大病院で手術すれば助かった可能性が・・・と言い出すと、そもそも事前に予測すること自体が難しい症例なわけです。子供が助かっただけでもよかったと思いますよ。両方死んでもおかしくないのに。

これで有罪なら、そりゃ萎縮もします・・・と言いたいところですが、無罪でも萎縮は止まらないでしょうねー。
削除

2008/8/25(月) 午前 8:28 [ 通りすがり ]

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<患者側はごくごく普通の市民です。>

加藤先生もごくごく普通の市民ですよ。

<一方の被告側は病院という組織です。しかも日本の産婦人科学会という大組織も支持に回っているのです。>

違いますよ。被告は加藤医師個人で、病院長も病院運営者の県も罪に問われていません。

2008/8/25(月) 午後 5:09 [ cal**jp ]

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遺族は気の毒ですが、それだけで言い分を鵜呑みにするのは
少し違うのではないでしょうか?
亡くなった患者の墓前土下座を要求し、この医師は要求どおり土下座したばかりか、毎月命日に墓参りをしていました。また、逮捕後も命日には墓参りをしています。これでも遺族は「明確な謝罪がなかった」と主張しています。また、初産も帝王切開で二子の妊娠をとめられていた事実や現在以外では救えない難病だったことを説明されると「娘が特異な性質であったといわれたようで、侮辱、中傷に値する」と主張されています。
削除

2008/8/26(火) 午前 10:13 [ kanna ]

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>そんな状況では説明に納得できない家族が警察に頼るのも無理ないことでしょう。

「説明が理解できないから逮捕して刑事罰」というのがどれだけ異常かお分かりですか?
説明が理解できないのは遺族の能力によるものかもしれないのです。

2008/8/28(木) 午後 8:30 [ unagiinu_ex ]

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看護師とか助産師さんはこういった場合“誠意を持ってすれば”とか、“信頼関係の築き方”、“患者の立場にたった”とか、聞いたようなことを書き込むのが多いが、むなしい

どんなに説明しようが理解力のない、心底敵意を持ったごく一部の人がいて、膨大な時間やコストをそこに費やされることを無視してんだよね。看護師や助産師の事故って実は医師の事例より多い。誤嚥事故や転倒管理、与薬間違いなど・・・こういうのも誠意の問題で片付ける看護管理者が多い。

こちらが丸腰なら相手は何もしないという・・・インディベンデスンスデイで宇宙人に歓迎!ってやって直ぐビルごと吹き飛ばされる連中

2008/8/29(金) 午前 11:07 [ notenfiler ]

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>看護師さんや助産師さん達だと思っています。

その根拠は何ですか?
貴方は実際に医療現場を見たのですか?

民間の看護師さんはよく働いてくれています。確かに。彼女彼らのサポートがあってこそ病院は回っているといえるでしょう。

しかし、大学病院や国公立の病院のナースは公務員であることをいいことに研修医に自分たちの仕事を押し付けて来ました。

医師が医師でなければできない仕事に専念できない、すなわち社会的資源の無駄づかいですね。

医師会なんかと違い、看護協会はとても強力な政治団体です。

医師が看護師よりラクな立場にいるなんて、竅った見方はやめてもらえませんか?

医師も看護師もその他のコメディカルも、医療費抑制政策のため、年々削られる診療報酬のため、病院を赤字にしないために過重労働を強いられています。

2008/8/30(土) 午前 9:29 [ poc**arimi*oji ]

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今回の裁判で無罪になったら「日本の医療が改善する」というような言い回しは、 奴隷のように働く医者を人質に取ったある種の脅しととれなくもありません。
愚民のプライドも疑いたくなります。。

2008/8/30(土) 午前 11:55 [ ukikkky ]

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ちなみに、ここのブログ主さんは、こんなエントリを書いています。

救急患者を見捨てた30の病院名を明かせ!
http://blogs.yahoo.co.jp/yuushi2011/52771485.html

2008/8/31(日) 午前 3:59 [ pun*t_*go ]

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